2020 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト肉腫幹細胞とオルガノイドモデルを用いた肉腫進展・転移メカニズムの解明
Project/Area Number |
19H03778
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
松峯 昭彦 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (00335118)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
出淵 雄哉 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 医員 (20795041)
林 寛敦 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (30583215)
秋山 徹 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任教授 (70150745)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肉腫 / 幹細胞 / オルガノイドモデル / 転移 / 浸潤 |
Outline of Annual Research Achievements |
肉腫の進展・肺転移のメカニズムは、現在においても明らかではなく、進行を制御する有効な薬物療法はない。研究代表者はこれまで、癌の発生・進展に関する基礎的な研究成果を報告してきたが、2次元培養下での肉腫細胞は、実際の肉腫をmimicしていないことが問題であった。 そこで、ヒト臨床サンプルから肉腫オルガノイドモデルを確立することを考えた。まず、肉腫細胞の1細胞遺伝子発現解析(scRNA-seq)を行うことによって、肉腫を構成する多様な細胞を機能的に分類し、肉腫幹細胞に特異的に発現するマーカーを同定し、肉腫幹細集団を分離・抽出する。数千の細胞の個々の遺伝子発現プロファイリングができるscRNA-seqは、細胞の個性を定義するのに適しているのでこれを活用する。次に、得られた肉腫幹細胞を用いて生体内の肉腫に近い性質を持った肉腫オルガノイドモデルを構築する。 オルガノイドは、人為的に創出された器官に類似した3次元組織体であり、これまで解析が困難であった様々な生命現象に迫ることが可能である。培地にニッチ刺激因子を添加することにより、生体内の肉腫をmimicする条件を決定し、sc-RNAseqを用いた遺伝子発現プロファイリングと組織学的変化を解析することで、肉腫の進展・分化に重要な分子を明らかにする。 さらにヒト肉腫オルガノイドをマウスに移植することで、オルガノイドと肺転移巣に共通して含まれる細胞群をsc-RNAseqを用いて抽出し、肺転移に必須のマーカーを同定する。 肉腫幹細胞と肉腫オルガノイドモデルを用いて、肉腫進展・肺転移のメカニズムを明らかにし、新たな治療薬の開発を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヒト骨肉腫からヒト骨肉腫細胞株を試みているが、その細胞株樹立に難渋している。そこで、平行してマウス骨肉腫細胞株(LM8)も用いて研究を継続している。その結果、LM8をマトリジェル内で培養したところ、①単離細胞は多分化能を持つこと ②スフェロイド形成すること ③自己複製能を有していること ④数個のスフェロイドをC3Hマウスに移植したところ安定的に腫瘍を形成すること ⑤スフェロイド構成細胞がドキソルビシン薬剤抵抗性であることを確認した。 次に、LM8のスフェロイドを用いたscRNA-seq解析を試みた。scRNA-seqのライブラリー調製はChromium (10xGenomics) を用い、得られたデータから肉腫幹細胞らしい特徴を持つ細胞集団を推定しその集団のマーカーを同定するのが目的である。しかし、コロナ禍の影響で福井―東京間の移動が困難なため、scRNAseqの施行に難渋している。福井大学で作成したスフェロイドを東京に郵送し、scRNA-seqを行ったが、微妙な環境の変化の影響で満足できる結果を得ることが出来なかった。そこで、東京大学の研究分担者によりスフェロイド作成を行い新鮮な状態でのサンプルの解析を計画している。 また、中国からの留学生である研究協力者の李修成(外国人研究者)が、中国帰国後、日本への再入国不能となっているため、研究の進捗が遅れているのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下の手順で研究を進める。 1)LM8のスフェロイドを用いたscRNA-seq解析を引き続き行う。scRNA-seqのライブラリー調製はChromium (10xGenomics) を用いる。得られたデータから肉腫幹細胞らしい特徴を持つ細胞集団を推定しその集団のマーカーを同定するのが目的である。現在、コロナ禍の影響で福井―東京間の移動が困難なため、scRNAseqの施行に難渋している。そこで、東京大学の研究分担者によりスフェロイド作成を行い新鮮な状態でのサンプルの解析を計画している。2)骨肉腫オルガノイドの作成:肉腫幹細胞をマトリジェル内で3次元培養を行う。3)肉腫オルガノイドへのニッチ因子刺激と解析:ニッチ因子刺激が、肉腫オルガノイドの進展・分化に与える影響は大きいと考えられる。ニッチ因子の刺激による肉腫の進展・進化をsc-RNAseqを用いたプロファイリングにより検討する。特に、肉腫組織構築のために重要な細胞間、細胞群間、細胞-基質タンパク間の相互作用を探索して肉腫進展・進化の分子基盤を解明する。4)ヒト骨肉腫サンプルを用いた研究:臨床サンプルから樹立したヒト骨肉腫では幹細胞候補の細胞群の同定ができていないので、ヒト骨肉腫サンプルを用いた研究を進める。5)肉腫オルガノイドのマウスへの移植と肺転移マーカーの同定:肉腫オルガノイドをマウス背部皮下に移植し、肺転移病巣から腫瘍を回収する。移植オルガノイドと肺転移巣に共通して含まれる細胞群や肺転移能と相関するオルガノイド内の細胞群を抽出しマーカーを同定する。 コロナ禍のため中国から入国不能となっている研究協力者の李修成(外国人研究者)が2021年夏には合流予定なので、早急に研究課題の遂行を行う。
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