2019 Fiscal Year Annual Research Report
うつ病リスクの低減を目的とした脳疲労の発生・回復メカニズムの解明
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19H03891
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
近藤 一博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70234929)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 疲労 / うつ病 / ストレス / 脳疲労 / ヘルペスウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究計画では、脳の疲労と疲労回復が、身体の疲労と同様にeIF2αリン酸化と脱リン酸化によって生じるかどうかを明らかにすることを目的とした。身体疲労モデルとしては、強制水泳をマウスに負荷し、脳疲労のモデルとしては、飼育ケージの床に薄く水を張ってマウスの睡眠を妨害することによって、断眠負荷を与えた。これらの負荷に対する脳細胞のeIF2αのリン酸化を測定した。 脳細胞のeIF2αのリン酸化の検討は、eIF2αリン酸化の代理マーカーとなるactivating transcription factor 3 (ATF3) mRNA発現の定量や、ウェスタンブロッティングによるリン酸化eIF2αによって検出することができた。また、脳のeIF2αリン酸化部位は、組織切片の免疫染色によって確認できた。マウスの疲労様行動は、回転ケージによる自発運動測定、強制水泳における遊泳時間および遊泳距離の測定、Y字迷路試験によって観察可能で、脳のeIF2αリン酸化と関連することが示された。この結果、脳の疲労と疲労回復が、身体の疲労と同様にeIF2αリン酸化と脱リン酸化と関連していることを示すことができた。また、不眠による疲労だけではなく、運動による疲労も脳の疲労を誘導することが見いだされた。 うつ症状に関して、尾懸垂試験やショ糖嗜好性試験などによって検討したところ、日常生活における労働負荷や睡眠不足程度の疲労負荷では、うつ様症状は生じないことがわかった。このことは、脳疲労からうつ病を生じるためには、何か追加の要素が必要であることを示唆するものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の最大の目的は、脳の疲労と疲労回復が、身体の疲労と同様にeIF2αリン酸化と脱リン酸化によって生じるかどうかを明らかにすることであった。これについては、運動負荷モデルと断眠モデルを用い、脳細胞のeIF2αのリン酸化と、自発運動低下や強制水泳における遊泳距離の低下などの疲労様行動とが関連することを示すことができ、脳疲労もeIF2αリン酸化と関連することを示すことができた。また、断眠だけでなく、運動負荷も脳疲労を引き起こすことを示すこともできた。また、脳のeIF2αリン酸化を検討する手段として、activating transcription factor 3 (ATF3) mRNA発現の定量や、脳のeIF2αリン酸化部位は、組織切片の免疫染色が利用可能であることを示すことができ、生化学、形態学の両面における解析手段を得ることができた。これにより、脳内のeIF2αリン酸化を誘導する因子や、eIF2αリン酸化によって変化する因子など、脳疲労のシグナル伝達や脳疲労とうつ病との関係を検討するための準備が整ったと考えられる。 うつ症状に関しては、尾懸垂試験やショ糖嗜好性試験などによる検討で、日常活における労働負荷や睡眠不足程度の疲労負荷では、うつ様症状は生じないことが示された。このことは、脳疲労からうつ病を生じるためには、単純な疲労だけではなく、何か追加の要素が必要であることを示すものと考えられ、今後の脳疲労とうつ病との関係を検討する上で、重要な知見となるものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究によって、脳の疲労と疲労回復が、身体の疲労と同様にeIF2αリン酸化と脱リン酸化と関連していることを示すことができ、疲労の負荷によって、効果的に脳のeIF2αリン酸化を生じさせることができるモデルを作成することもできた。さらに、不眠による疲労だけではなく、運動による疲労も脳の疲労を誘導することが見いだされた。 これらの成果を受けて、本年度は主として、脳疲労の発生機構の解明に取り組む。身体疲労の場合は、末梢臓器細胞中でのeIF2αリン酸化が起点となって炎症性サイトカインが産生され、これが疲労感を引き起こした。そこで、血液脳関門を通過する、eIF2αリン酸化阻害剤integrated stress response inhibitor (ISRIB)が、脳疲労関連の現象を抑制するかどうかを検討することで、脳疲労とeIF2αリン酸化との直接的な関係を証明する。 また、脳疲労の分子機構を解明するために、脳細胞でのeIF2αリン酸化やeIF2αリン酸化に関連するシグナルであるATF3、ATF4、C/EBP homologous protein (CHOP)の発現誘導を観察する。また、脳のグリア細胞の活性化マーカー(Mertk、Gas6、CD68など)も検討する。また、これらの現象を生じる脳の部位を明らかにすることで、脳疲労に関わる神経伝達に関する情報も得る。 このような検討を行うに際して、脳の場合は、身体疲労の場合とは異なったシグナル伝達経路が使用されている可能性がある。このような点を考慮して、シグナル伝達経路を網羅的に検討するために、TaqMan Array 384-well cardを用いて、eIF2αリン酸化に関係するシグナル分子の発現変化を詳細に検討する。これらによって、うつ病に発症に関係する脳疲労の本態を明らかにして行こうと考えている。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Attenuation of human herpesvirus (HHV-) 6B and HHV-7 reactivation by aging.2019
Author(s)
Kobayashi, N., Shimada, K., Nishiyama, T., Yamauchi, T., Suka, M., Yanagisawa, H., Kondo, K.
Organizer
The 66th Annual Meeting of the Japanese Society for Virology