2019 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化による過剰死亡推定―多国間共同環境疫学研究
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19H03900
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋爪 真弘 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (30448500)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 允姫 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (40746020)
小野塚 大介 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50446829)
ウン クリス・フック・シェン 長崎大学, 熱帯医学・グローバルヘルス研究科, 准教授 (70620409)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 気候変動 / 環境疫学 / 過剰死亡 / 下痢症 / 温暖化 / 時系列解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
温暖化に対して有効な対策を取らなかった場合、2030年代には熱関連過剰死亡が世界で3万7千人余り、下痢症による過剰死亡が4万8千人余り発生すると予測されている (WHO, 2014)。本研究は、温暖化による将来の過剰死亡数をより現実的に推定するための疫学的予測モデルの開発をおこない、今世紀末までの温暖化による過剰死亡数を推定することを目的としている。 初年度は、暑熱の影響に対する適応レベル、大気汚染交互作用、ヒートアイランドの影響を調べるために必要となる、我が国の死亡、気温、大気汚染データの収集を行った。また、温暖化に伴う日本および世界での下痢症による過剰健康負荷の推定をおこなった。下痢症は、未だ世界的に疾病負荷が高く、温暖化の影響を受けやすいと考えられ、その過剰健康負荷の将来予測をすることは意義がある。 日本の下痢症予測:2005-2015年の週別感染性胃腸炎報告数と平均気温の週次時系列データをもとに時系列解析を行い、4つの代表的濃度経路(RCP)にもとづく気候変動シナリオについて、適応や人口が現在と変化しないと仮定し、今世紀末における胃腸炎罹患数を推定した。結果、2010-2019年と比較し、2090-2099年では気温の変動により発生する胃腸炎罹患者が、0.8%(RCP2.6)から9.1% (RCP8.5)少なくなると推定された。つまり、高排出シナリオ(温暖化の程度が大きい)ほど、気温に関連する胃腸炎罹患者数が少なくなる可能性があることを意味するが、これは、日本では感染性胃腸炎の大部分が冬季の腸管ウイルス感染によるものであるためと考えられ、今後病原体別のさらに詳細な検討が必要と考えられた。 世界の下痢症予測:地球全体で分野横断型の影響評価を行う国際プロジェクトISIMIPに参加し、世界疾病負荷 (GBD)データを用いて、全球での下痢症過剰死亡の推定を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、初年度は暑熱の影響に対する適応レベル、大気汚染交互作用、ヒートアイランドの影響を調べるために必要となる、我が国の死亡、気温、大気汚染データの収集を行った。死亡小票データは、直近の2018年末までのデータを厚生労働省に申請済みであるが、2-3月の新型コロナウイルス流行のためかデータ受け渡しの時間がかかっているようで、データ収集のスケジュールは3-4か月程度遅れるかもしれない。 日本の下痢症予測に関しては、Environmental Health Perspectives誌に論文が掲載された。(Onozuka et al., 2019)世界の下痢症予測に関しては、まず病原体別(コレラ、カンピロバクター、赤痢、ロタウイルス、ノロウイルス等)に気温―下痢症罹患の関連についてシステマティックレビューおよびメタ解析を行い、病原体別の相対危険度を推定し、それを用いて病原体別の将来予測を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、過去40年間のheat effectの経年変化を調べ、さらに各都道府県のエアコン普及率、ヒートアイランド指標、社会経済指標、医療状況指標とheat effectの経年変化との関連を調べる。すなわち、これらの因子がheat effectに対する適応の促進要因としてどの程度有効か定量化する。また、気温と死亡者数の関連に対する光化学オキシダント濃度の交互作用について、同様にDLNMを用いてデータ解析を行い定量化する。また、過去の県別データ解析で明らかとなった適応レベルと光化学オキシダントの交互作用、ヒートアイランド現象の影響を考慮した予測モデルを開発し、今世紀末までの気温上昇による過剰死亡推定をおこなう。世界の下痢症予測に関しては、引き続きISIMIPの枠組みで、全球での下痢症過剰死亡の推定を行い、年度内に論文投稿を行う。
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Research Products
(8 results)