2019 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of baseball pitching and the risk of elbow injury
Project/Area Number |
19H04007
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
矢内 利政 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (50387619)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肘外反ストレス / 野球 / 投手 / 投球動作 / バイオフィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
2019-2020年度には、プロ野球投手9名ならびに大学野球投手6名を対象として、肘外反ストレスをバイオフィードバックする方法を用いた投球を繰り返し行わせた際の投球動作ならびに球速データを収集した。アンダースロー投手1名(最高球速116 km/h、最大肘ストレス55Nm)を除くと最大球速は139±3 km/hで、肘ストレスを加減した際には球速は9±3 km/h(6±4 %max)の範囲で変化した。肘外反ストレスの最大値は73±10 Nmで、バイオフィードバックによる変化幅は13±7 Nm(18±8 %max)であった。各投手について肘外反ストレスの増減に関連のある運動学的変数を解析したところ、①ストライド足が地面に接地する際に肩関節内旋角が大きく投球肘を体幹後方で高く挙上したときほど肘外反ストレスが大きい傾向と、②投球側の肩関節が最大外旋位に達する際に肩甲骨の後方傾斜角と体幹伸展角が小さく肩関節の水平外転角と外旋角が大きいときほど肘外反ストレスが大きい傾向が多数の投手から観察された。 最も大きな肘外反ストレスを記録したのは肘外反ストレスの調節感覚に優れたプロ野球投手であった。通常の投球においては平均82 Nm@142 km/hであったが、「(肘に負荷がかかるように)強く腕を振った」場合にはほぼ同じ球速で肘外反ストレスは上昇し(91 Nm)、「肘に優しく」投球した場合には低下した(73 Nm)。 肘外反ストレスの最も小さかった選手もプロ野球投手で、この投手の肘外反ストレスの最大値(51 Nm @ 137km/h)は他の投手(アンダースロー投手を除く)が繰り返し投球した際の最小値より小さく、投球動作、球速、肘外反ストレスの再現性が極めて高いことが特徴的であった。球速を低下させることなく肘外反ストレスを更に軽減させる余地がこの投手にあるのかについて、今後見極めていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究プロジェクトは2つの予期せぬ問題により大幅に遅延している。問題の1つは、2019年度の研究プロジェクト開始当初に発生したもので、バイオメードバックデータが解釈し難いとの訴えが複数の被験者から寄せられたことである。この問題については、フィードバックシステムを改良することによって解決し、システム改良後にプロ野球投手ならびに大学野球投手よりデータ収集を開始した。もう一つの問題は、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、選手やチームの責任者より外部者との接触することを控えたいとの要望があったため、運動学習プログラムを一旦停止したことである。この影響は現在も続いているため、データ収集活動は大幅に遅延している。この問題が収束時期を推測することが困難なため、新型コロナ渦においても運動学習が実施するための対策として、新しいバイオフィードバック方法(無線式慣性センサとスマホアプリを活用した肘外反ストレス計測・フィードバックシステム)の開発に取り組むこととした。2020年秋に開始したこの取り組みは順調に進んでおり、既にアルゴリズムの作成と精度検証は完了している。現在は、これをスマホアプリに変換し、選手やコーチが正しく使用できるようにインターフェースを整えている段階である。この方法論が完成し次第、課題1『投球時外反ストレスの増減と投球フォームとの関連を1投球毎のバイオフィードバックにより運動学習させる方法論を提案する』を再開する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨今の新型コロナ渦による影響で外部者との接触を控えたいとの球団や選手、チームからの要望に応えるため、当初計画していたデータ収集方法論を大幅に見直し、昨年度末より取り組んでいる新たな方法論を完成させることによって3密が生じないよう配慮したうえで昨年度に計画していた研究計画を実施することとする。具体的には、課題1『投球時外反ストレスの増減と投球フォームとの関連を1投球毎のバイオフィードバックにより運動学習させる方法論を提案する』における投球時外反ストレスを計測する方法として、無線式慣性センサとスマホアプリを用いる方法論を完成させることを第一ステップとする。この運動学習は、各選手について複数検者(3~4名)が計測に関わり20-40分間のセッションを日を変えて複数回(2-10回)繰り返す必要があるため、3密の生じる可能性や接触頻度の高いプロセスである。新しい方法論は、このプロセスを被験者のみ、あるいは1名の検者の支援のみで実施することを可能にするものである。既にアルゴリズムの作成と精度検証は完了しているため、これをスマホアプリに変換し、選手やコーチが正しく使用できるようにインターフェースを整えることとする。この方法論を用いてプロ野球と社会人野球投手からなるエリート群、大学野球投手で構成された大学群、高校野球投手からなる高校群のそれぞれについて運動学習プログラムを実施し、球速を大きく変化させることなく投球時肘関節外反ストレスを軽減させ得る投球フォームの特徴を抽出する。運動学習プログラムの前後には従来の方法論を用いた投球動作の計測を1度ずつおこない、そこに観察される変化を分析することにより、課題3に挙げた『ストレスを軽減させる投球フォームやこれと球速の維持・増大を両立させる投球フォームの運動学的特徴およびそのメカニズム』を明らかにする。
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