2020 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of baseball pitching and the risk of elbow injury
Project/Area Number |
19H04007
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
矢内 利政 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (50387619)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 肘外反ストレス / 野球 / 投手 / 投球動作 / バイオフィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、①無線式慣性センサを用いたバイオフィードバック法の改良とこれを活用した運動学習の実施、②課題2『運動学習過程で球速増大やストレス軽減に取り組んだ際の手部軌道の変化や複数節運動の協調的変化を明らかにする』ための予備的分析、③課題3『ストレスを軽減させる投球フォームやこれと球速の維持・増大を両立させる投球フォームの運動学的特徴およびそのメカニズムを明らかにする』ための予備的分析を実施した。 上記②については、投球動作解析を実施した41名の中から球速を維持しつつ肘関節ストレスが大幅に低下(>10 Nm)した試技の確認された15名を選抜し分析を行った。その結果、肘ストレスの低い投球を行った際には、(i)コッキング期終了間際の肩甲骨protraction角が大きく、(ii)同局面の肩水平内転トルクが小さく、(iv)加速期を通じて胸郭側方傾斜角が大きく、(v)肩最大外旋時における運動依存トルクが小さいことが統計分析によって確認された。 上記③については、球速維持と肘関節ストレス低下を両立できた投手や肘ストレス維持と球速増大を両立できた投手の総数が少なかったため、被験者間の差異に着目した分析を実施した。上記41名の各投手の代表値に加え、以前行った投球動作解析にて収集した31名分を含めた計72名分のデータを用いた。重回帰分析の結果、(i)球速の個人差は、踏み出し足接地時の肩関節挙上角速度、最大外旋時の肩甲骨のprotraction角速度と肘の伸展角速度、ボールリリース時の胸郭の角速度の個人差によって50%以上説明できることと、(ii)肘ストレスの個人差は、踏み出し足接地時の肩水平内旋トルクと最大外旋時の肘関節角度、運動依存で発生する肘関節トルク、前腕の角速度の個人差によって80%以上説明できることが確認された。球速と肘ストレスは有意に相関していたものの、説明変数に重複はなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究プロジェクトは、『バイオフィードバックによる運動学習』が円滑に進んでいないことに起因して、課題2『運動学習過程で球速増大やストレス軽減に取り組んだ際の手部軌道の変化や複数節運動の協調的変化を明らかにする』と課題3『ストレスを軽減させる投球フォームやこれと球速の維持・増大を両立させる投球フォームの運動学的特徴およびそのメカニズムを明らかにする』の実施が遅延している。遅延の原因の1つは新型コロナウィルス感染拡大や蔓延防止等重点措置の実施に伴い対面による動作解析実験を予定通りの頻度で実施できなかったことで、もう1つはコロナ対策による対面実験の遅延状況を打開するために開発した新しいバイオフィードバックシステムが投球腕の運動データから肘関節ストレスを算出する方式を採用しているため、このシステムのみでは投球動作の全容を解析することができないことである。これらの影響により、2つの課題に取り組むためのサンプル数を潤沢に増加させることができなかった。 その一方で、これまでに取得したデータに基づいて本研究課題の核心をなす2つの仮説(①各投手について、球速を大きく変化させることなく投球時肘関節外反ストレスを軽減させ得る投球フォームは存在する。②投球時外反ストレスの軽減と投球パフォーマンスの維持を両立できる投球フォームは身体セグメントの運動連鎖や肩甲上腕リズムを改善することによって習得される。)の予備的検証は実施できた。統計的パワーを十分に確保できるだけのサンプル数には達していないものの、両仮説を支持する成果は得られている。引き続き『バイオフィードバックによる運動学習』を進め、学習効果のあった対象者について投球動作解析実験を実施することにより、次年度には上記の仮説検証が十分な統計的パワーを確保して実施できるものと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
繰越最終年度となる2022年度は、①無線式慣性センサを用いた『バイオフィードバックによる運動学習』を継続的に行い、②学習効果のあった対象者について投球動作解析実験を実施するという過程を粛々と実施することにより、③十分な統計的パワーを確保した仮説検証を実施する。本研究における運動学習は、肘関節内で発生する力学的荷重という自己認識できない生体情報をリアルタイムでフィードバックすることにより投手に障害リスクの程度を把握させ、それに対する抑制や制御を試みさせるものである。各選手には、①投球強度と外反ストレスの関連性の学習、②球速と外反ストレスの関連性の学習、③球速を大きく変化させることなく外反ストレスを軽減する投球フォームの模索、④軽減した外反ストレスを維持しつつ、投球強度または球速を変化させる投球フォームの模索を順に行わせることとする。また、この運動学習の過程で肘ストレスの軽減に苦慮する選手に対しては、本年度実施した予備的検証で得られた客観的データに基づいたアドバイスを適宜行うことにより、運動学習効果の向上に努めることとする。 本研究課題の核心をなす2つの仮説の検証は、最終年度終了時までに収集した全データを用いて実施する。この仮説検証は、被験者内の日内試技間変動に着目した分析と各被験者の代表値の個人差に着目した分析の2つを中心に実施する。また、研究プロジェクト発案時に計画したもう1つの着目点である被験者内の縦断的変動について分析することにより、バイオフィードバックによる運動学習の縦断的効果を検証し、実践現場において求められる実質的な運動学習効果を検証することとする。
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