2020 Fiscal Year Annual Research Report
種-集団-個体レベルの多様性の遺伝的背景を総合理解する統計モデルの開発
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19H04070
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Research Institution | The Research Institutue of Evolutionary Biology. |
Principal Investigator |
岸野 洋久 (財)進化生物学研究所, その他部局等, 客員研究員 (00141987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北田 修一 東京海洋大学, 学術研究院, 名誉教授 (10262338)
中道 礼一郎 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(横浜), 主任研究員 (70401255)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子進化 / 集団ゲノム / 高次元多変量解 / 階層分散分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度には、哺乳類の遺伝子系統樹とヒト、チンパンジー、ゴリラ、マウス、イヌの種内の遺伝的多型性を比較分析し、種内の遺伝的多型性が哺乳類全体にわたる長期的な分子進化速度に規定されることを見出した。さらに、種内の遺伝的多型については、集団構造の成立過程と局所環境への適応を鳥瞰する方法の開発を行った。現在、これらの結果をまとめて投稿した論文が査読中である。 種間の比較では、複数遺伝子座の分子系統樹の枝長から遺伝子-枝の交互作用を抽出し、これを予測因子として表現型の祖先形質を復元する方法の有効性を実証分析で検証した。哺乳類における生殖生活史の進化に照準を当て、形質間の共進化を分析した。その結果、夜行性から昼行性への変化は一夫一婦制から一夫多妻制への変化と共進化すること、陸上生活から樹上生活への移行は産子数の減少を伴うことなどが示唆された。また、腫瘍抑制因子として機能する遺伝子が離乳期の予測因子として選択されるなど、本手法の妥当性が確認された。 さらに、遺伝子発現をコントロールする転写因子の進化を分析した。哺乳類96種のゲノムから転写因子14万からなるデータベースを構築し、遺伝子系統樹と種系統樹を突き合わせて出生死滅を分析した。その結果、哺乳類は大規模に転写因子をふるい落としてきたことがわかった。さらに欠失率は、有袋類から分かれた胎盤類が北方真獣類、異節上目、アフリカ獣上目に分かれる1億年前と、恐竜が大量絶滅して大型哺乳類が適応放散するK-Pg境界(6500万年前)に大きなピークを示した。また、転写因子の標的遺伝子は、転写因子の欠失後分子進化速度が低下する傾向が見られ、機能的制約が強まったことが示唆された。このことは、転写因子の欠失が遺伝子発現ネットワークの構造変化をもたらしたことを示唆しており、転写因子の大量欠失と哺乳類の大進化の関りが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
種内の遺伝的多型性と種間の長期的な分子進化の連続性を示した論文、種内の集団構造の成立過程と環境への適応を鳥瞰する論文を投稿しているが、査読・改訂に時間がかかり、まだ刊行に至っていない。この間、研究は途切れることなく、遺伝子発現の鍵を握る転写因子の進化を追った。表現型の多様性と進化には遺伝子発現の変化が大きく貢献している。転写因子は遺伝子の発現を制御するが、一般に数多くの標的遺伝子を持つため、保存性が高い。こうしたことから、多くの研究者の関心は、遺伝子上流にある転写因子結合部位やエンハンサーなど、遺伝子に個別に働くシス調節因子の変化に向けられてきた。相同な転写因子を種間で比較した先行研究は、遺伝子間のネットワークも種間で保存されていることを示した。本研究は相同な転写因子はもともと保存性の高い遺伝子に偏っていることに注目し、全転写因子を分析対象とした。その結果、1億7千年前に哺乳類が誕生して以降の長い進化の過程で、大量の転写因子がふるい落とされてきたことが明らかになり、それが哺乳類の大進化と関わってきたであろうことが示唆された。当初計画における想定を超えて、研究の射程を大きく伸ばしたという点で、本研究はおおむね順調に進んでいると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、哺乳類ゲノムから得られた遺伝子系統樹と集団ゲノムデータを対比分析し、種内の遺伝的多様性は哺乳類全体の長期的な進化に大きく制約されていることを明らかにした。そして、長期的な進化速度からの予測からの逸脱として、表現型に働く種特異的な選択圧を検出する方法を開発した。また種内の遺伝・環境・形質データを対応分析し、集団の環境への適応とその遺伝的背景を推測する方法を開発した。これらの結果をまとめた論文は現在査読中であるが、本年度は必要な追加解析、改訂を行い年度内に完成した論文を刊行する。またアレル頻度の分析と個体レベルの多形質関連分析を対比することにより、遺伝子の多面発現と表現型可塑性、集団の環境への適応を鳥瞰する方法の開発を行う。開発したモデルはパッケージ化し、公開する。
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Research Products
(4 results)