2020 Fiscal Year Annual Research Report
Glycolytic oscillations and their synchronization in cancer cells and astrocytes
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19H04205
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
雨宮 隆 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60344149)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中田 聡 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (50217741)
山口 智彦 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任教授 (70358232)
渡邉 昌俊 三重大学, 医学系研究科, 教授 (90273383)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | がん細胞 / アストロサイト / 糖代謝 / 解糖系振動 / 同期現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
数種のがん細胞やアストロサイトのエネルギー代謝振動を1細胞レベルで計測するための実験系を構成した。細胞間相互作用を強めることを目的にヒト子宮頸がんHeLa細胞の細胞隗(スフェロイド)を構成し,1細胞ごとの解糖系振動を初めて計測した。HeLa細胞は2次元単層培養系よりも不均一に振動した。また,カドヘリン結合された隣接細胞においても同期現象は見られなかった。これらの結果は原著論文としてまとめ現在投稿中である。 ラット由来のアストロサイト細胞株(IFO50491, JCRB)の単培養系を確立した。この系を用いて解糖系振動実験を行ったところ,振動を示す結果は得られなかったが,新たに解糖系以外にミトコンドリアの関与を示唆する新たな結果を得た。アストロサイトはがん細胞と同様に解糖系を亢進することが知られているが,そのメカニズムは異なると考えられている。がん細胞は,解糖系最終産物であるピルビン酸をミトコンドリアに取り込む輸送体(Mitochondrial Pyruvate Carrier: MPC)の活性が低いことが知られており,トリカルボン酸回路及び酸化的リン酸化が起こりにくい。これががん細胞のWarburg効果の大きな一因であり,そのため解糖系振動が起こると考えられる。一方,アストロサイトはニューロンから放出されるグルタミン酸などの情報伝達物質の刺激を受けて解糖系を亢進すると考えられているものの,MPC活性が低減しているとの報告はない。そこで,細胞外液にグルタミン酸をはじめ解糖系を亢進と期待されるカリウムイオンなどを添加してみたところ,特にグルタミン酸を添加した系において,がん細胞の解糖系振動で見られたグルコース取り込みを表す一過的な応答が見られた。しかしながら,解糖系振動は未だ得られておらず,得られているデータの解析を進めるとともに,ニューロンとの共培養系について検討を開始する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がん細胞に関しては実験結果と数理モデル解析から,解糖系振動を指標としてがんの悪性度の評価に利用できる可能性について言及した総説を英文専門書に掲載した。また,がん細胞における解糖系振動の同期現象については単層培養系を用いた研究ではこれまで観察されていなかったので,細胞間の物理化学的な結合を強めることで同期現象が誘発されると考えた。そこで,カドヘリン結合を有するHeLa細胞のスフェロイド(細胞隗)を形成し実験を行った。スフェロイド中の個々のHeLa細胞は単層培養系に比較して,不均一に振動した。また,隣接細胞はカドヘリン結合を有するものの同期現象を示さず,それぞれの細胞は独立に振動した。この結果は,個々のHeLa細胞はスフェロイドを形成しても,細胞間で代謝的相互作用を強めることなく,自律的なエネルギー代謝を行うものと考えられる。 アストロサイトにおいては単培養の実験系(IFO50491, JCRB)を確立することができた。これを用いて解糖系振動の実験を行ったところ,これまでのところ振動現象を観察するには至っていないが,新たにミトコンドリアの関与を示唆する結果を得た。これは解糖系振動の発現メカニズムを知るうえで重要な情報となる。すなわち,アストロサイトはがん細胞と同様に解糖系を亢進することが知られているが,そのメカニズムは異なると考えられるのである。がん細胞はもともとミトコンドリアのピルビン酸輸送体(MPC)の活性が低いため解糖系が亢進しやすい(Warburg効果)。しかし,アストロサイトが解糖系を亢進するのは情報伝達物質であるグルタミン酸と共輸送されるカリウムイオンの効果であると考えられている。アストロサイト単培養系の実験から,アストロサイトの解糖系振動発現のメカニズムは,がん細胞のそれとは異なることを明確にすることができた。これらの知見は,来年度の研究計画に大きく資する。
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Strategy for Future Research Activity |
がん細胞についてはこれまで主に扱ってきたHaLa細胞の解糖系振動ならびに同期現象の特徴をまとめると共に,他のがん細胞株についても研究を進め,広くがん細胞の解糖系振動と同期現象のキャラクタリゼーションを進める。特に,がん細胞の解糖系振動と悪性度との関連を明らかにし,解糖系振動からがんの悪性度を評価する手法を確立する。 これまで文献調査から,がん細胞の解糖系振動に及ぼすミトコンドリアのエネルギー代謝の影響は小さいと推察されるが,それを実験的に明らかにする。特に,解糖系の反応場である細胞質とミトコンドリアの間で行われるNicotinamide Adenine Dinucleotide(NADH)シャトルに着目して研究を進める。以上より,がん細胞の解糖系振動ならびに同期現象の研究を総括する。 脳細胞については,まずは前年度までに得られているアストロサイト単培養系の実験結果の解析を進め,アストロサイトが解糖系を亢進するメカニズムを実験的に明らかにする。特に,生体内で発生する一酸化窒素(NO)がアストロサイトの解糖系亢進に関与しているとの文献情報があるので,NOの効果についても実験的に調べる。 また,より生体組織に近いアストロサイトとニューロンとの共培養系を確立する。ニューロンとの共存がアストロサイトの解糖系振動を誘発することができるのかを明らかにする。さらに,アストロサイトで産生される乳酸がニューロンに輸送されてニューロンの酸化的リン酸化が行われるとのANLS仮説(Astrocyte-Neuron Lactate Shuttle Hypothesis)の検証を目指し,共培養系におけるミトコンドリアの膜電位振動の観察を行う。解糖系振動の指標であるNADH振動とミトコンドリア膜電位振動の因果性を解析し,乳酸輸送に関する実験的知見を得る。
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Research Products
(17 results)