2019 Fiscal Year Annual Research Report
環境水中のナノ・マイクロ粒子の実時間測定法の開発と応用
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19H04236
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
茂木 信宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20507818)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 光司 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (90630814)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 微粒子検出 / 光散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、流体中の粒子がレーザー光線のビームウエストを横断するときに生じる散乱波の振幅と位相を検出する方法(イタリアの物理学者が2006年に発明)の独自改良型と、散乱波の振幅と位相のデータから粒子の特徴を推定する逆解析法を組み合わせることで、「粒子の構成物質の同定」と「粒径別数濃度の測定」の両方を同時に実施できる単一の測定原理を世界で初めて確立することができた(Moteki 2020, JQSRT)。まず,粒径と屈折率が既知であるポリスチレン粒子について,散乱波の振幅・位相の理論値と測定値が一致することを示し,開発した装置の性能を検証した。開発した逆解析法は、形状が未知の粒子にも対応する工夫を施しており、球形粒子に限らず非球形粒子に対しても正確な測定ができる。環境水中ではしばしば、鉱物粒子や有機物粒子などの複数の化学種の粒子が、それぞれある程度広い粒径分布幅を持って独立な粒子として存在している。その特性を利用し、ある水試料の測定で得られたN個の粒子データの中で、複素屈折率の実部・虚部が同一で粒子体積のみが互いに異なる粒子集団に起因するとみられるn個(n<N)の粒子データを固有のカテゴリーとして分類しておき、そのカテゴリーについて、同一の複素屈折率の実部・虚部とn個の異なる粒子体積というn+2個の未知パラメータの推定を実施することにした。使用するn個の粒子データの自由度は2nであるため、n>2のとき逆問題の劣決定性が解消され、各カテゴリーに属する粒子について複素屈折率の実部・虚部と体積の一意的な推定が可能となる。本データ解析手法を用いることで、複素屈折率が固有の粒子群ごとに、粒径別数濃度を決定することができることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、単一粒子の前方散乱波を複数の角度(散乱角0度, 10度)で検出できるように光検出装置を改良し、単一粒子データの次元を増やすことにより、単一粒子分析の逆問題の劣決定性を解消する方針をとる予定であった。しかし、新たに発案した粒子集団のデータ点群の逆解析法を用いると、散乱角0度の前方散乱波の検出のみから、粒子集団の物理特性(複素屈折率・形状・粒径分布)を高確度に推定できることが明らかになった。降水中の微粒子分析への適用例から、この逆解析アルゴリズムは環境水中の粒子の物性同定と粒径分布測定にたいして十分に実用的であることが分かった(Moteki 2020, JQSRT)。当初予定していたハードウェアの高度化を施さなくても、複数の粒子種が混在した環境水試料の分析が可能なデータ解析手法を確立できたことは、装置の開発コストおよびメンテナンス複雑化を抑えることにつながり、広域観測への展開を容易にするため、大きな進展といえる。また、測定可能な粒径範囲を0.2-5マイクロメートルに拡張した装置を開発し、試験を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の短期的な重要課題は、測定の時間分解能を向上させることである。本研究の微粒子分析法では、多数の単一粒子データを一定時間積算し、数百個以上のデータ点群に対して逆解析アルゴリズムを適用するため、粒子の検出レートが高いほど時間分解能は向上する。さらに、本研究の装置を大気微粒子の観測に応用するためには、水中より2桁程度も粒子数濃度が低い大気中において、毎秒1個以上の粒子を検出できるようにする必要がある。この要求を満たすためには、入射波ビームを横断する空気流速を~10 m/s(水中では ~0.1 m/s)にまで高め、単一粒子の信号波形取得の時間分解能を~2 ns(水中では ~0.2 μs)まで細かくする必要がある。この空気流速を実現することは容易である。一方、この時間分解能を実現するためには、~500 MHz以上の帯域幅を持つ超高速な信号波形取得システム(光検出器・信号処理回路・伝送線)を新たに開発して実装する必要がある。現装置(Moteki 2020 JQSRT)で採用している4分割型フォトダイオードを用いた光検出器は十分な応答速度をもたず、これ以上の検出レートの高速化を望めないため、4分割型フォトダイオードよりも高速な多素子型光検出器を設計・開発する。この検出器からの電流信号の増幅・演算・伝達のために高周波用の電子回路を開発する。高速LED光パルスの照射試験により、測定システムの動作確認を行う。
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