2019 Fiscal Year Annual Research Report
High resolution analysis of fallout records of radioactive iodine and chlorine in ice core from both poles
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19H04252
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松崎 浩之 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (60313194)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀内 一穂 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (00344614)
本山 秀明 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (20210099)
笹 公和 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20312796)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 加速器質量分析 / 塩素36 / ヨウ素129 / アイスコア / 大気圏核実験 / グリーンランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,1945年以降の人為的な核エネルギー利用により生成され,環境中に放出された長半減期放射性同位体ヨウ素129と塩素36のフォールアウトの記録を両極アイスコア中から高時間分解能で解読することである. 2019年度は,SE-domeアイスコア中の塩素36の分析を中心に行った.測定したのは合計89点であり,1956年から1984年をカバーしている.特に大気圏核実験の影響が見られる1950年代から1960年代初めの部分は,およそ半年の時間分解能で分析を行った.このコアは,研究代表者らによって,すでにヨウ素129の概ね半年の時間分解能の解析が済んでいるもので,両者の時系列プロファイルの比較が可能である.塩素36の解析結果は,1950年代に顕著なピークが見られ,1960年代以降は比較的単調に減少していくというものであった.ヨウ素129の場合は,1959年代に小さなピークが見らるものの,顕著なピークは1964年に見られたので,塩素36とヨウ素129とで明確な違いが見られた.この結果は,大気圏核実験の行われた状況から定性的に解釈できる.塩素36は海水中の塩素35が中性子による放射化によって生成する.1954年と1958年にアメリカ合衆国が太平洋実験サイトで大きな核実験を行った事により,1950年代に大量の塩素36が生成したため,これが北極地方に大気により輸送され,アイスコアに記録されたと考えられる.一方,1961年には,旧ソヴィエト連邦が,ノヴァヤゼムリャ(北極海上の比較的大きな島)で最大の核実験を行っている.陸上の場合,中性子放射化のターゲットである塩素35が少ないため,塩素36の生成は小さいが,ヨウ素129は核分裂生成物であるため,生産量が大きい.また,輸送上も比較的グリーンランドに近いため,ヨウ素129のプロファイルはソヴィエトの実験を大きく反映していると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アイスコア中の塩素36を高時間分解能で測定するためには,1点あたりの試料数が小さくなる.具体的には,1点あたり,200g前後,塩素のキャリアを2mg添加で行った.加速器質量分析における36Cl/Cl同位体比は1E-13から1E-12のオーダーであった.測定上最も大きな障害は,同重体イオウ36の干渉であり,分析試料からいかにイオウを排除するかが技術上の課題であり,当初は,このための基礎実験に時間をかける予定であった.テストサンプルを用いた何回かの試行の結果,良い実験条件を見いだすことができたため,アイスコア試料の分析に移行した.2019年度中に89点の実データが得られ,核実験のピークが明確に示された点や,ヨウ素129のプロファイルとの違いが明確に見出された点など,新たな発見が多かった.このことは,おおむね順調な成果であると自己評価している.また,アイスコア中の安定ヨウ素濃度は,これまで,濃度が低すぎて分析を躊躇していたところ,2019年度に,ICP-MS分析における新たな手法を開拓して,0.01ppbオーダーの濃度が分析可能となった.そこで,グリーンランドSE-domeアイスコアのほぼ完璧なヨウ素濃度データセットが得られたことも大きな成果である.一方で,結果の解釈は定性的なものにとどまっていること,南極アイスコアの分析には進めていないなど,課題も残っている.また,塩素36の加速器質量分析においては,今後,より現代に近い部分の分析となり,濃度が小さくなることが予想されるため,さらなるバックグラウンドの低減を目指す必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度で得られた成果と課題から,測定技術上の課題も明確になった.一つは,塩素36の加速器質量分析におけるさらなるバックグラウンドの低減である.これまでの検討でイオウ36による妨害を以前よりも格段に抑えることができているが,依然として,バックグラウンドを決める要因がイオウ36であるという現実は変わっていない.試料の前処理における化学的分離は十分な効果を上げていると考えられるため,現在イオウの混入経路としては,塩化銀のカソードプレスの過程が大きいのではないかと考えている.そこで,今年度はプレス過程の方式を検討する予定である.分析試料としては,南極アイスコア試料中のヨウ素129の分析を予定している(これまで未測定).他に,今年度北海道大学のグループがグリーンランドで新たなアイスコアを掘削する計画であり,当初は,本研究でもその試料を分析する予定であったが,新型コロナウィルスの影響により,掘削計画自体が1年延期となった.そのため,本研究における分析計画も変更される.そのため今年度は,南極アイスコアのヨウ素129の分析,先に述べた塩素36の加速器質量分析におけるバックグラウンドの低減の試行実験,および,これまでに得られたデータの定量的解釈を行う予定である.また,2019年度に得られた知見をまとめ,論文を投稿する.
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Research Products
(2 results)