2021 Fiscal Year Annual Research Report
Behavior and function of dissolved organic matter in the northwestern Pacific Ocean discovered by radiocarbon age
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19H04260
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
乙坂 重嘉 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (40370374)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
脇田 昌英 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(むつ研究所), 研究員 (30415989)
小川 浩史 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50260518)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 海水 / 溶存有機物 / 放射性炭素 / 炭素循環 / 環境変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、北西部北太平洋及びその縁辺海域において、海水中の溶存有機物の放射性炭素(DOC-14)同位体比から算出される年代を定量し、溶存有機物の濃度分布の情報に、その動態のとなる時間の情報を加えたマップを作成することを第一の目的としている。加えて、2000年代より継続している時系列観測の結果を踏まえ、海水中DOC-14同位体比の近年(概ね過去15年)における変化傾向の有無を検討し、その変化の要因の解析を第二の目的としている。 本研究の主軸となる時系列観測点である、北西北太平洋亜寒帯域の観測点K2(北緯46.9度、東経160.0度)における観測では、2021年度までに解析した最近(2019年)の観測データを、2000年代の結果と比較することにより、DOC-14の変化の傾向を世界で初めて明らかにした。 観測点K2の深層(1,500m以深)におけるDOC-14同位体比(Delta C-14値)は-480±8 ‰に収束しており、2006年の同深度での値(-488±8‰)と有意な差はなかった。この観測点の深層におけるDOC濃度は37±1 マイクロモル/kgで、DOC濃度とDelta C-14値との関係は、他の海域で見られる深層水で見られる関係と一致した。このことは、北西太平洋のDOC-14同位体比は、全球レベルでのDOCの深層循環に伴う濃度減少の結果を表していると考えられた。表層から中層におけるDOC-14同位体比は、いずれの観測年においても、海洋表層での生物活動によって新たに生産される「現代の」DOCと、全球規模で循環する「古い」DOCの二成分混合モデルで概ね説明できた。ただし、中層における「古い」DOCの濃度は、2019年よりも2006年の方が高かった。北太平洋の中層を水平移動するDOCの存在が浮き彫りとなり、その輸送フラックスは時間変動することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度までに、下記の(1)から(4)の項目を実施した。COVID-19の影響を受けて海洋観測計画の一部の延期や分析スケジュールの遅延が生じたものの、概ね計画通りの進捗に回復している。 (1) DOC-14分析システムの整備:乙坂・小川が独自に開発した低汚染DOC-14抽出装置を東京大学大気海洋研究所に設置し、同研究所に設置されているシングルステージ加速器質量分析装置との組み合わせた一連の分析システムを整備した。 (2) 北太平洋およびその縁辺海おける海洋観測及び試料分析:分析システムの整備と並行して、研究船「みらい」による北西部北太平洋における時系列定点K2での観測(脇田)、練習船「おしょろ丸」及び「新青丸」による日本海の観測(乙坂)、及び学術研究船「白鳳丸」による北西部及び東部太平洋の観測(小川・乙坂)をそれぞれ実施し、計15観測点で海水試料を採取し、分析を進めた。 (3) 北太平洋における溶存有機物動態の解析:海水中のDOC-14同位体比とDOC濃度のマスバランスから、海水中のDOC分布を、海洋表層での生物活動によって新たに生産される「現代の」DOCと、全球規模で循環する「古い」DOCの2成分混合モデルで説明可能とした。このモデルから、北太平洋の北西部縁辺の表層から中層(概ね水深200から800m)で「古い」DOCの濃度が高く、これらの海域を起源とするDOCが、外洋域の中層に輸送されたことを浮き彫りにした。 (4) 海水中での溶存有機物の特性分析:バイオマスと化石燃料の燃焼の副産物であるブラックカーボン(BC)について、太平洋の広域における分析を進め、海洋による人為的CO2吸収フラックスの1.5から3.3%に相当する量が沈降粒子によって海底へ運ばれていることを明らかにした。海水柱からの溶存有機炭素の除去機構に関する新たな知見として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の最終年度である2022年度は、下記の(1)から(4)を推進し、海洋におけるDOC-14同位体比のマップを拡充させるとともに、海洋における有機物循環の理解の深化に貢献するとともに、本課題に関連する新たな課題解決のための。 (1) 海水試料分析の継続:2022年度は、太平洋の広域の観測点で採取した海水試料の分析を実施し、DOC-14マップを拡充する。海水試料のDOC-14分析は、乙坂が中心となって小川と分担して実施する。海水中の溶存有機物濃度分析は小川と脇田が担当する。 (2) 縁辺域における溶存有機物の輸送機構のまとめ:これまでの解析から、北西太平洋の縁辺域から亜寒帯外洋域の中層への数十年規模でのDOCの水平移流過程が示唆された。特に艦隊から亜寒帯にかけての北太平洋の沿岸に運ばれた陸起源物質の外洋域への輸送過程を紐解くうえで極めて重要な情報であり、海洋物質循環の最新の知見としてデータ解析・公表を進める。データのとりまとめは乙坂が担当する。 (3) 北西太平洋亜寒帯域における環境変動傾向のまとめ:北西太平洋亜寒帯域の表層から中層でのDOC循環の十年スケールでの変化・変動の傾向を抽出し、その要因とあわせて検討する。特に、中規模渦の形成当の海洋ダイナミクスが海洋内部でのDOC-14分布の変化に与えた影響について詳細にまとめ、公表する。時系列データの解析及び変動傾向の抽出は脇田と乙坂が、溶存有機物の特性の時間変化の解析は小川がそれぞれ実施する。 (4) においては、海洋プラスチックの拡散や福島第一原発からの処理水放出といった、人類活動による有機炭素の海洋環境への影響を検出するための高感度なツールとして、DOC-14を活用するための調査・解析を進め、今後の展開に向けた知見を蓄積する。既存の試料分析に加えて、日本海や福島沿岸等での試料採取も実施する。
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