2021 Fiscal Year Annual Research Report
mTert幹細胞に特異的な遺伝子の解析による幹細胞休止性と放射線抵抗性の理解
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19H04274
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
大塚 健介 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (50371703)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨田 雅典 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (00360595)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 休止期幹細胞 / 消化管幹細胞 / オルガノイド / 次世代シーケンサー / 低分子化合物ライブラリ / ライブセルイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、消化管の上皮細胞を供給する源の細胞である消化管幹細胞を標的として、その周辺組織である微小環境を含めた組織全体の放射線応答動態を解明する研究である。消化管幹細胞には、恒常的に上皮細胞を産生する増殖性幹細胞と、増殖性細胞が失われた場合に、増殖性幹細胞を回復させるための休止期幹細胞があることが知られている。研究代表者らを含むこれまでの多くの研究から、高線量の放射線照射を行うと増殖性幹細胞が減少するが、休止期幹細胞などの動員により回復されることが示されてきた。しかしながら、現在までに、休止期幹細胞がどのように回復に寄与するか、機能的な放射線応答動態については明らかになっていない。そこで本研究は、マウス消化管幹細胞として知られているmTert陽性細胞の放射線応答を中心に組織レベルの放射線応答動態を理解することを目指している。 本年度は、mTert陽性細胞のみが蛍光タンパク質EGFPを発現する遺伝子組換えマウスより摘出した消化管幹細胞を含むクリプト組織を用いて、休止期幹細胞由来のオルガノイド形成能を試験する実験系を構築した。 また、休止期幹細胞において放射線のようなストレス応答が、どのような微小環境により誘発されるかを理解するために、低分子化合物ライブラリによる多サンプル同時評価スクリーニングの実験系を構築した。 さらに、組織に存在するごく少数の幹細胞におけるエピジェネティックな変化を検出するために、小スケールChIP-Seqによりゲノム上のメチル化状態を理解するための実験系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
さまざまな条件下における休止期幹細胞(mTert陽性細胞)のオルガノイド形成効率を、増殖性幹細胞(Lgr5陽性細胞)のオルガノイド形成効率と比較するために、96ウェルプレートを用いてオルガノイド形成効率を評価した。これまでの実績から予想された通りにオルガノイド形成効率が得られており、96検体同時評価の条件が効果的であることが実証された。また、低分子化合物ライブラリを用いて、96ウェルプレートに播種した細胞をライブセルイメージングするハイスループットスクリーニング系を構築した。各ウェル毎に化合物反応性が異なることを検証するために、本申請者がこれまでに開発した放射線影響として最も重要視されているDNA損傷応答を可視化するライブイメージング技術(Focicle; フォーサイクル)を駆使して、96ウェルのタイムラプスライブセルイメージング実験系を構築した。その結果、放射線応答動態のように、低分子化合物の中に応答を示すものがあることが分かり、スクリーニングが実行できることを確認した。 次世代シーケンサーを用いて休止期幹細胞のエピジェネティックな状態を把握するために、ChIP-Seqを検討する際に、得られる休止期幹細胞の数が極めて少ないことから、従来の大量の細胞を必要とする手法ではデータを取得することが困難であると予想された。そこで、小スケールの細胞からChIP-Seqを行うCUT&RUNを導入・最適化し、数千個というオーダーの細胞集団からメチル化状態を把握するプロトコルを確立した。 また、最終的に幹細胞を取り巻く組織の微小環境レベルで放射線応答動態を評価するため、本申請者らが現在開発を行っているFocicleマウスの活用を検討した。現在、消化管などからオルガノイドを形成させることができており、上述のハイスループットスクリーニング系において並行して比較評価するための実験系構築を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに開発してきた技術を統合しながら、研究成果をまとめていく。オルガノイドを指標としたハイスループットスクリーニングについては、増殖性と比較して休止期幹細胞のオルガノイドの形成効率を修飾する要因を検討する。その際、形成されるオルガノイドについては、組織学的な特徴を検証するため、ライブ組織もしくは固定サンプルとして、最新の顕微鏡イメージングを活用することで実施する。また、組織における放射線応答動態を理解するためにDNA損傷応答可視化マウスの活用を進めて知見の統合を図る。 次世代シーケンサーによる遺伝子発現、エピジェネティックな修飾解析については、定常状態の休止期・増殖性細胞の比較と合わせて、放射線照射による発現、修飾状態の評価を実施する。 一方で、オルガノイドの培養に用いる足場基材マトリジェルや低分子化合物ライブラリなど一部の製品について、世界的な需要過多とコロナ禍の経済停滞などの原因から、入手が困難な状況になっている。このことから、スループットを向上させて大量のスクリーニングを行うことがしにくい状況が想定され、研究の進行がやや停滞する可能性がある。この状況が続く場合は、代替マトリジェルなどの他の基材や、利用可能な化合物ライブラリを活用するといった対応を検討する。
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Research Products
(2 results)