2020 Fiscal Year Annual Research Report
小型魚類の定量的フェノーム解析を基盤とした化学物質の発生毒性評価と作用機序解明
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19H04275
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
久保田 彰 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (60432811)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 大輔 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (90708364)
川合 佑典 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (10709546)
江口 哲史 千葉大学, 予防医学センター, 助教 (70595826)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゼブラフィッシュ / 発生毒性 / 内分泌撹乱 / 発達神経毒性 / 毒性発現機構 / 化学物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、昨年度確立した評価系の活用と新たなインビボ評価系の開発に取り組み、主に以下の成果を得た。 (1)昨年度確立したエストロゲン受容体(ER)を介した作用のインビボ評価系を用いて、家畜の繁殖障害を誘発するかび毒ゼアラレノンとその還元性代謝物のエストロゲン様作用を評価した。試験した6種すべてのゼアラレノン類はエストロゲン様作用を示し、その用量効果と最大効力は化合物間で異なることが明らかとなった。 (2)化学物質の抗アンドロゲン作用を検出するインビボ評価系の開発を試みた。テストステロン(TES)曝露胚においてsult2st3のmRNA発現量は濃度依存的に増加し、この発現誘導はアンドロゲン受容体拮抗薬によって有意に抑制された。次いで、sult2st3をマーカーとして、ビンクロゾリン、p,p’-DDE、フェニトロチオンの抗アンドロゲン作用を評価した。TESによるsult2st3発現誘導はいずれの化合物によっても濃度依存的に抑制され、その用量効果と最大効力は化合物間で異なることが明らかとなった。 (3)稚魚の行動解析をベースとした発達神経毒性の一部評価系を確立した。本評価系を用いて、ネオニコチノイド系農薬イミダクロプリドは稚魚の活動性自体に影響を及ぼすことなく、特定の低濃度において不安を表す行動異常を起こすことが示唆された。また、アセタミプリドについても低濃度域における同様の行動異常が認められた。 (4)いまだ不明な点の多いTCDD誘発性の循環障害のメカニズムを検討した。今回新たにTCDD曝露胚で濃度依存的にPGE2合成酵素(ptges)のmRNA発現が誘導されることを明らかにした。TCDD誘発性循環障害に対するPTGES阻害剤の効果を検討したところ、循環障害は有意に増悪したことから、PGE2はTCDD毒性に対して保護的に働く可能性があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、昨年度確立したERを介したエストロゲン様作用のインビボ評価系を活用することで、新たにゼアラレノン類のエストロゲン様作用について用量応答曲線から50%影響濃度(EC50)を算出した。さらに、ARを介した抗アンドロゲン作用のインビボ評価系を確立し、いくつかの農薬について50%影響濃度(IC50)を算出した。 本年度新たに、発達神経毒性のエンドポイントとして稚魚の行動解析をベースとした一部評価系を確立し、ネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリドやアセタミプリドが低濃度で稚魚の不安様行動を誘発することを明らかにした。 ゼブラフィッシュ胚におけるTCDD誘発性の循環障害について、PGE2が保護的な役割を担う可能性を示したのは現時点では本研究が初であり、当該毒性に対する生体防御機構の理解について大きな進展がみられた。 なお、COVID-19拡大に伴う研究活動の自粛や必要消耗品の納品遅延等により、特にRNA-Seq解析や遺伝子発現解析を含む一部研究内容に若干の遅れが生じているものの、当初の計画よりも進んでいる項目もあることから、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は以下の研究を推進する予定である。 引き続き、リン酸トリエステル類とその代謝物、ハロゲン化ダイオキシン類、ビスフェノール類、エクインエストロゲン類、ゼアラレノン類とその還元性代謝物、ネオニコチノイド類について、催奇性、循環障害、行動異常など多様な毒性フェノタイプの評価と、バイオマーカーを活用した内分泌撹乱作用の評価を行う。影響がみられた化学物質のうち一部については、曝露胚を用いたRNA-Seq解析を行い、バイオインフォマティクス手法により毒性発現機構を検討する。次いで、RNA-Seq解析で毒性への関与が予想された標的分子の拮抗薬や阻害剤などとの共処置、すなわちレスキュー実験を行うことでそれら分子の毒性への関与を検証する。 得られた成果をまとめ学会発表するとともに早期に論文化して公表する。 なお、COVID-19拡大に伴う研究活動の自粛や納品遅延等により進捗状況に若干の遅れが生じているRNA-Seq解析や遺伝子発現解析については、少なくとも一旦は状況が改善してきたこと、およびこれら解析系は当研究室ですでに手法が確立されていることから影響は軽微であると考えている。
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Remarks |
① 日本環境毒性学会第1回オンライン研究発表会 若手奨励賞、Lee Jae Seung、2021年3月、オンライン開催、表彰等
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Research Products
(7 results)