2019 Fiscal Year Annual Research Report
転写因子TCF3によるメチル水銀毒性軽減機構の解明
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19H04276
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黄 基旭 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (00344680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
外山 喬士 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50720918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メチル水銀 / 転写因子 / TCF3 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請者らはメチル水銀を投与したマウスの脳内で転写因子であるTCF3が活性化されることを見出した。また、このTCF3の活性化はマウス由来の神経幹細胞であるC17.2細胞においても認められ、本細胞のメチル水銀感受性がTCF3発現抑制によって増強されることが判明した。これらのことから、TCF3がメチル水銀毒性の軽減因子としてマウス脳内において重要な役割を果たす可能性が示唆されている。そこで本年度は、メチル水銀によるTCF3の活性化機構について検討した。メチル水銀をマウスに皮下投与したところ、大脳皮質および小脳においてTCF3 mRNAおよびその蛋白質のレベルが増加した。また、このTCF3レベルの増加はC17.2細胞においても認められた。そこで、C17.2細胞を転写阻害剤で前処理したところ、メチル水銀によるTCF3の蛋白質レベルが依然として増加した。また、翻訳阻害剤の存在下においてTCF3の蛋白質レベルが速やかに低下したのに対し、本低下はメチル水銀処理によって著しく抑制された。さらに、プロテアソーム阻害剤処理によってもTCF3の蛋白質レベルが増加し、本条件下ではメチル水銀によるTCF3レベルの増加がほとんど認められなかった。一方、TCF3高発現細胞ではTCF3の下流遺伝子の発現が増加すると共に、そのプロモーターへのTCF3の結合も増加していた。これらのことから、メチル水銀はTCF3蛋白質のプロテアソームでの分解を抑制し、これによって活性化されたTCF3がメチル水銀毒性軽減作用を示すことが示唆された。C17.2細胞をメチル水銀で処理することによってDNA断片化およびカスパーゼ3の活性化が認められたが、これらはTCF3を高発現させることによって著しく抑制された。以上のことから、TCF3はメチル水銀によるアポトーシス誘導を抑制することによってその毒性を軽減していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの先行研究によって、生体はメチル水銀の侵入を感知し、それに応答してTCF3の活性を上昇させることよってメチル水銀毒性から自身を防御している可能性が示唆されている。そこで本研究では、メチル水銀によるTCF3活性化機構、および、TCF3によるメチル水銀毒性軽減作用に関わる分子機構を明らかにすることを最終目的として実施している。本年度の研究によって、メチル水銀に曝露された脳内ではプロテアソームでの分解抑制を介して転写因子TCF3が活性化され、本活性化によってメチル水銀による神経細胞のアポトーシス誘導が抑制されることでメチル水銀毒性軽減に関与していることが明らかになった。TCF3が示すメチル水銀によるアポトーシス誘導の抑制作用に関わる分子機構について詳細に検討中であるものの、上述のように今後本研究を推進していく上で貴重な知見を得ることができたことから、本研究は計画に従って「概ね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討により、TCF3はメチル水銀によるアポトーシス誘導を抑制することでその毒性軽減に関与していることが示唆された。そこで、TCF3によるメチル水銀毒性軽減に関わる分子機構を詳細に検討するため、下記の項目について検討する。 1.TCF3が示すメチル水銀によるアポトーシス誘導抑制作用に関わる分子機構:アポトーシス誘導には内在性経路と外来性シグナルに起因するデスレセプター経路が関与している。そこで、C17.2細胞を用いてメチル水銀によって活性化されるアポトーシス誘導経路を特定すると共にその経路に対するTCF3の作用機構を検討する。なお、本検討には、ミトコンドリアを介したアポトーシス誘導経路の指標としてミトコンドリアの膜電位およびシトクロムcの細胞質への放出を、小胞体を介した経路の指標としてカスパーゼ-12やカスパーゼ-9の活性化を調べる。また、デスレセプターを介した経路の関与はカスパーゼ-8の活性化を指標として検討する。 2.TCF3を介してメチル水銀によって発現誘導される下流遺伝子の検索:これまでの検討により、既知のTCF3下流遺伝子の発現を抑制しても細胞のメチル水銀感受性にはほとんど影響を与えなかった。そこで、RNAシーケンス解析を用いてTCF3を介してメチル水銀によって発現誘導される遺伝子を網羅的に検索し、その発現変動を定量PCRを用いて検証する。 3.上記2で同定された因子のメチル水銀によるアポトーシス誘導への関与:まず、同定された因子の発現抑制または高発現がメチル水銀によるアポトーシス誘導に与える影響を検討することで関連因子を特定する。また、メチル水銀毒性における当該因子とTCF3との関わりについて様々な生化学・分子生物学検討を行うことで明らかにする。
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Research Products
(8 results)