2020 Fiscal Year Annual Research Report
転写因子TCF3によるメチル水銀毒性軽減機構の解明
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19H04276
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Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
黄 基旭 東北医科薬科大学, 薬学部, 教授 (00344680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
進藤 佐和子 東北医科薬科大学, 薬学部, 助教 (50795987)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メチル水銀 / 転写因子 / TCF3 / アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請者らは、TCF3が転写因子としてマウス脳内で活性化することでメチル水銀による神経細胞死を抑制する可能性を見出している。また、メチル水銀はTCF3のユビキチン化を介したプロテアソームでの分解を抑制することで活性化するが、本作用がメチル水銀毒性に対する防御応答であることを培養細胞での検討により明らかにしている。そこで本年度は、TCF3によるメチル水銀毒性の軽減に関わる分子機構について検討した。C17.2細胞(マウス神経幹細胞)をメチル水銀で処理したところ、アポトーシス誘導に関わるカスパーゼ-3の活性化およびDNAの断片化が認められた。また、メチル水銀はアポトーシス誘導に関わる小胞体関連経路、ミトコンドリア関連経路およびデスリガンド関連経路、の全てを活性化していたが、その中でメチル水銀によるミトコンドリア膜電位の低下および細胞質へのシトクロムcの放出がTCF3発現抑制によって著しく増加することを見出した。一方で、このTCF3の発現抑制はメチル水銀による小胞体およびデスリガンドを介してアポトーシス誘導関連因子にはほとんど影響を与えなかった。TCF3は転写因子としてメチル水銀毒性軽減作用を示すことが示唆されていることから、TCF3を介してメチル水銀によって発現誘導される遺伝子を網羅的に検索した結果、sulfiredoxin-1をコードするSRXN1が同定された。このSRXN1の発現はメチル水銀で処理することによって著しく上昇したが、本上昇はTCF3の発現を抑制するすることによって低下した。また、SRXN1の発現を抑制してもメチル水銀によるカスパーゼ-3の活性化およびDNAの断片化が著しく増加した。以上のことから、TCF3はSRXN1の発現を誘導することによってメチル水銀によるミトコンドリアを介したアポトーシス誘導を抑制していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの先行研究により、メチル水銀の脳内侵入を感知した生体は、脳中TCF3の活性を上昇させることでメチル水銀毒性から自身を保護している可能性が示唆されている。そこで本研究は、メチル水銀によるTCF3活性化機構、および、TCF3によるメチル水銀毒性軽減作用に関わる分子機構の解明を目的として行われている。まず昨年度まではメチル水銀によるTCF3活性化に関わる分子機構を検討し、メチル水銀はTCF3のユビキチン化を介したプロテアソームでの分解を抑制することでその活性を上昇させることを明らかにした。続いて本年度は、TCF3によるメチル水銀毒性軽減に関わる分子機構を詳細に検討した。その結果、TCF3はメチル水銀によるミトコンドリアを介したアポトーシス誘導を抑制することでメチル水銀毒性軽減作用を示すことと、本作用に転写因子のTCF3がSRXN1(sulfiredoxin-1)の発現を誘導することが関わることを明らかにした。これまでにTCF3が転写因子としてSRXN1の発現誘導に関与するとの報告はなく、本分子機構がメチル水銀による脳神経障害に対する防御機構であることは非常に興味深い知見である。今後、TCF3によるSRXN1の発現誘導機構、および、アポトーシス誘導に対する新規抑制機構としてのTCF3/SRXNの役割を検討することで、転写因子TCF3によるメチル水銀毒性軽減機構の全容が明らかになるものと期待される。以上のように、本研究は当初の研究計画通り進んでおり、これまでの検討により今後本研究を推進していく上で貴重な知見を得ることができたことから、本研究は計画に従って「概ね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討により、TCF3はSRXN1の発現を誘導することでメチル水銀によるミトコンドリアを介したアポトーシス誘導を抑制することでその毒性軽減に関与していることが明らかになった。そこで、TCF3によるメチル水銀毒性軽減に関わる分子機構の全容解明を目指し、下記の項目について検討する。 1.メチル水銀毒性発現におけるTCF3とSRXN1の関わり:メチル水銀はミトコンドリア機能障害を介してアポトーシスを誘導するが、本アポトーシス誘導経路をTCF3が抑制することでメチル水銀毒性軽減に関与することを明らかにしている。そこで、メチル水銀によるミトコンドリア膜電位の低下や細胞質へのシトクロムcの放出、活性酸素種の産生などを指標として様々な生化学・分子生物学検討を行うことでメチル水銀毒性発現におけるSRXN1の役割やTCF3との関わりを明らかにする。 2. TCF3を介したメチル水銀によるSRXN1発現誘導機構:これまでにTCF3が転写因子としてSRXN1発現誘導に関与するとの報告はない。そこで、SRXN1遺伝子のプロモーター上へのTCF3の結合有無や結合部位などを検討するとともに、TCF3構造中に存在する転写関連領域を欠失させた変異体を作製してSRXN1発現誘導との関係を調べる。これらの検討により、メチル水銀によるSRXN1発現誘導におけるTCF3の役割を明らかにする。 3. マウス脳中でのTCF3およびSRXN1発現細胞の特定と活性化:マウス脳中でTCF3およびSRXN1を発現している責任細胞を免疫染色により特定し、また、その発現量にメチル水銀が与える影響などを調べることで上記1~2の培養細胞を用いた検討により得られた知見を検証する。
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