2019 Fiscal Year Annual Research Report
自己凝集性ペプチドの可逆コアセルベーションによる環境汚染物質吸着システムの開発
Project/Area Number |
19H04303
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野瀬 健 九州大学, 基幹教育院, 教授 (10301334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友原 啓介 九州大学, 基幹教育院, 助教 (40711677)
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エラスチンペプチド / 自己凝集 / 化学物質吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生分解性を持ち環境負荷が小さな、タンパク質を構成するアミノ酸を原料とする温度依存的可逆自己凝集(コアセルベーション)能を有する合成ペプチド、Elastin-Like-Peptides:ELP を母体として、機能性材料、特に、化学物質の吸着能を有する素材の開発を行う。本研究は3年計画の初年度であり、当該年度においては、天然エラスチンタンパク質の内部アミノ酸配列VPGVGを母体として開発したFPGVG配列を持つペプチドやそのアナログ体を化学合成するとともに、低濃度かつ室温付近でコアセルベーションを起こすELPの調製を複数の手法により実施した。ELP をバイオ素材として用いるためには、低い調製コストと目的化学物質の吸着能力を持つことが必要である。このため、本研究では、常法であるアミノ酸配列に従った逐次アミノ酸縮合反応を、リビング重合を用いた合成方法および液相合成法による大量調製による代替を検討し、NPCアミノ酸を用いた合成や可溶性担体用いた液相合成を実施した。より高機能なELPを開発するために、ELP 配列中に内在する芳香族アミノ酸の置換や側鎖の変換を行い、より高機能性のELPを得るとともに、その高機能性を発揮するアミノ酸残基の位置特異性を明らかとした。また、ELPに金属結合配列を搭載することで、温度依存的な凝集能を保持しつつ、同時に、特異的な金属の吸着が起こるペプチドを得ることができた。これらにより、次年度以降の化学物質結合性評価のための素材のプロトタイプを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調であると判断される。しかし、コロナウィルスの感染拡大のために3月の研究室活動が制約されており、得られた研究成果の取りまとめを一部は完了することができずにおり、当初の計画以上と判断することはできなかった。 本年度は、ELP アナログの大量調製法の確立と性状解析を実施した。その中で、NPCアミノ酸を用いた重合実験は、NPCアミノ酸誘導体の合成を完了するとともに、その試作を実施することができた。また、別に可溶性担体を用いた液相合成を実施し、その有用性を確認した。アミノ酸を置換したELPアナログを複数調製し、その中から従来のペプチドと比べより凝集能が高いペプチドを見出すことに成功した。これは、天然のアミノ酸のみからなるものであり、今後の活用が期待されるものである。また、この研究の過程で、どのアミノ酸、どこのアミノ酸を置換すると凝集能力が向上するかについての情報が得られたため、今後の研究進展のための大きな知見を得た。また、ELPに特異的金属結合配列を結合させたペプチドアナログが高い金属結合性を有することを明らかとした。同時に、NTAやEDTAなどの金属結合分子とのコンジュゲートを合成し、これらにおいても金属結合性を確認している。さらに、次年度の化学物質結合性評価のための結合試験系が正常に機能することを確認し、これを用いての論文発表を行った。以上の結果を合わせて、おおむね順調に本研究は進展しているものと判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まずは、ペプチドの調製スケールの拡大が必要であるが、これについては通常の固相合成法からフラグメント縮合法、液相法へとすでにシフトしており、これらの手法の安定的な実施が必要となる。令和2年度においては、この合成を担当する研究人員を増員する計画としており、スケールアップの問題を解消する予定である。一方、この報告書を書いている現在、研究室は緊急事態宣言下で活動が停止されており、すでに1ヶ月が経過している。この遅れを取り戻すことは物理的には不可能であるため、宣言がいつ取り下げられ、研究室活動が再開されるかについては、現在のところ不明であり、その対応策の検討も今後となる。
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Research Products
(9 results)