2020 Fiscal Year Annual Research Report
Expansion of the Freedom for Working Mothers and Children in the Plantation Area of Sri Lanka: Practical Study of the Capability Approach
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19H04372
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Research Institution | Seisen University |
Principal Investigator |
磯邉 厚子 聖泉大学, 看護学部, 教授 (40442256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植村 小夜子 佛教大学, 保健医療技術学部, 教授 (10342148)
松永 早苗 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (30614581)
岩佐 美幸 聖泉大学, 看護学部, 助教 (30782651)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ケイパビリティ・アプローチ / スリランカ / 母と子ども / 健康 / 農園 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
スリランカ中央部州の3県のうち、紅茶農園の多いヌワラエリヤ県は妊婦健診率が向上しつつあるものの依然、死産や早産、低出生体重児件数は高率(中央部州統計2018)で、我々のこれまでの調査結果と一致し、数年来変わっていない。そのため母子の健康改善は喫緊の課題である。教育水準は以前より改善しつつも、いまだに調査対象者の中には未就学者が存在し、母子の健康管理能力や教育水準の向上は足踏み状態である。2020年3月の調査から、農園で働く母の完全母乳授乳率は38%で、国平均の80%には程遠く、働く母にとって重要な当国の授乳時間条例12B(授乳時間の確保)は農園の母には届いていなかった。そのため仕事中の母は、高価な粉ミルクや市販の離乳食に頼らざるを得ない状況であった。一方、農園託児所には授乳室がなく、さらに母が預けた搾乳は保管が不適切で、働く母への支援環境は不十分であった。2020年、1日の茶摘み量のノルマが16kg→20kgに上げられ、母の労働過重はさらに加速、身体的、精神的な負担が増えている。子への育児時間が十分保障されないだけでなく、母への様々な社会的情報も少なく、母自身が健康生活を送るうえで必要な、労働者の権利の保障、社会的経済的アクセスや政治・社会参加の機会の保障も欠乏している。人間らしい生活水準、健康維持、安心な家庭生活を営むことは母の願いであるが、農園移民の歴史的背景もあり、いまだに職業差別や民族差別など、社会的不平等の境遇におかれている。母子が人生の豊かさを育んでいくためには、人間の基本的な能力(自由)の保障、行政の積極的な介入、民間支援の必要性、農園内外の多様な人々との交流、農園福祉や母の労働条件の見直しが喫緊である。一方で、住民が主体的に取り組むべくコミュニティ単位、地域単位(農園単位)の取り組みが農園福祉の機能(ケイパビリティの拡大)に組み入れられなければならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年~2020年3月までの2度の渡航調査により、母の労働生活や健康生活、子どもの成長・発達環境の課題はおおむね把握できた。2020年~2021年はコロナ禍のため、渡航ができず、母子への直接的調査はできなかった。しかし、現地研究協力者から農園の労働条件や福祉プログラム情報、国全体の政治、経済、社会の現状(コロナ情報を含める)把握に協力をいただき、一定量の客観的情報を収集できた。これらの情報から、農園の母子のケイパビリティの拡大の可能性と実効性を分析評価、すなわち、働く母と子どもの自由の拡大において、基本的な人の機能から健康生活に至る資源分配に関する機能(国の制度~地域資源)、母子の発達や社会的機能(母子を取り囲む農園及びコミュニティ福祉)、地域社会、地域特性に関する機能をまとめ、ケイパビリティ理論に依拠した分析作業を進めている。その結果、母子にとって実現可能な機能、実現に時間を要する機能、実現困難な機能、さらに社会へ発信すべき機能など、母子のケイパビリティの拡大(自由)の可能性を表しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナウイルス感染症の情勢により渡航が可能となれば、残された課題:農園の母子を支援するべく様々な支援機関(行政-中央部州庁や県事務所、農園事務所、国内・国際NGO)及び地域コミュニティのインフォーマルな人材を訪問し、支援者の現状や方針を把握する。また、母のインタビューが可能な場合、母自身の意思や労働ジレンマ、様々なストレスへの対処能力・阻害条件など、外部に見え難い母子の現状を把握し、農園の働く母と子どもの自由(ケイパビリティ)の可能性をより深く探究する。一方、母は母親としての人の機能の達成のみならず、1人の女性としての自律や社会を変化させていくエージェンシーとして主体的役割を果たすべく人の機能も含めてケイパビリティ・アプローチの可能性を探究する。また、理論と実践(調査結果)を往来、循環させながら、ケイパビリティ・アプローチを有効かつ理論的、実践的なアプローチとして開発アプローチの体系化、応用化を目指す。 渡航調査が困難となった場合は、現地協力者へ研究協力を依頼すると共に、ケイパビリティ・アプローチの理論探求及び開発研究に関する知見を収集、総合的に分析・評価し、理論的実践的に本アプローチの実践可能性を社会へ発信する。
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Research Products
(5 results)