2020 Fiscal Year Annual Research Report
中性子透過分光法を用いた磁性材料評価法革新のための基盤研究
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19H04400
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
間宮 広明 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主席研究員 (30354351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷 正司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (40281654)
寺田 典樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主幹研究員 (60442993)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中性子 / 透過分光法 / 磁性材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
この半世紀の中性子利用は磁性体の物理の究める道具として究極の精度を目指しビッグサイエンス化の道を歩んできたが,蓄積した磁性物理の知見を磁性材料開発に利用する流れのなかでツールとしての中性子利用法にも変革が求められている.一方,最近,我々は回折波の発生を透過波の減少で検出する中性子透過スペクトル分光法でも簡便に磁気構造が決定できることを示した.そこで,本課題では,このスペクトル分光法が新たなニーズそれぞれに適した磁気構造解析手段となることを当該分野の実材料をモデルに用いた実証実験により具体的にデモンストレーションすることで,中性子を気軽に利用して磁性材料を開発すという新たな潮流を創り出すことを目指している.具体的には,以下の通りである. 極限環境下透過分光:散乱中性子を拾うために大きな窓が必要な回折法とは異なり透過分光法では入射/透過軸上の極小窓だけがあれば良い特性を用いて従来以上の極限環境下での磁気構造解析を実証する.現在,新規高圧アンビルの設計・製作が完了し,またモデル材の検討も進んでいる. 集光光学系を用いた小型化の検討:現状の光源/検出器の特性を考慮した集光光学系に関する検討を進めている. 多試料並列同時測定:既存の回折法では試料位置は周囲を囲む検出器群の中心一点であるので1個ずつしか測れないが,透過分光法では多試料並列同時測定が可能であることを示す.現在,極低温用試料セルの設計・製作が完了し,またモデル材の準備も進んでいる. 磁気デバイスイメージング:透過力の大きな中性子ビームの特性と透過スペクトルの位置分解性を併せて磁気デバイス内部のオペランドイメージングが可能であることをデモンストレーションする.高周波フェライトコアを用いた予備実験を完了しており,現在,その評価・解析を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では,磁性材料各分野でスペクトル分光法が便利な材料評価ツールとなることを,実材料をモデルに用いた実証実験により具体的にデモンストレーションすること目指している.現段階では,以下の通りの実施状況にあり,概ね予定通りに進捗している. 極限環境下中性子透過分光:透過分光法用に入射/透過軸上に極小窓を開けた新構造の高圧アンビルを新たに設計し,製作した.また,この高圧下での磁気構造評価の有用性をアピールするモデル材として,最大の磁気冷凍性能を示すErCo2を選定し,中性子透過分光法を用いれば置換系での磁気構造変化への化学的圧力を物理的圧力に替えて分析できることの実証を目指してJSTプロジェクトとも連携しつつ準備を進めている. 集光光学系を用いた小型化の検討:現在の光源/検出器をそのまま用いて集光した場合の分解能について評価した.また,入射角を拡げた場合の小角散乱への影響を分析するとともに,小角散乱系も含めて各種モデル材料の検討を進めた. 多試料並列同時測定:同時に1つの試料しか測れない既存の回折法に対して透過分光法を用いた多試料並列同時測定法を開発し,極低温等発生が困難な測定条件における優位性・有用性をアピールする.現在,試料セルの設計・製作が完了している.またアピール性の大きな対象として極低温で動作する水素液化用磁気冷凍をモデルに選び,なかでも重要な重希土類合金の試料群同時測定のための試料作製・事前評価を進めている. 磁気デバイスイメージング:銅のコイルで覆われた高周波フェライトコアに通電したオペランド状態で透過力の大きな中性子の大口径ビームを偏極させて入射し透過スペクトルを背後の2次元検出器で位置分解分光した結果,磁化方向のイメージング像を得ることに成功した.現在,その評価・解析を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
極限環境下中性子透過分光実験,多試料並列同時測定及び磁気デバイスイメージングについて実材料をモデルに用いた実証実験及びその分析により,有用性の具体的なデモンストレーションを進める.集光光学系についても引き続き検討を進める.現在の新型コロナウイルス感染症の蔓延等もあり,J-PARC等の外部機関にある中性子施設の利用が計画通りに進められるか予断を許さないが,そうした場合には設計の高度化を先行させるとともに,より周到なモデル材料の準備を行う. また,本科研費課題採択後,カーボンニュートラル実現への社会からの大きな期待のもとに,磁気冷凍材料開発を進めるためJSTの未来社会創造事業が開始され,またパワーエレクトロニクス用磁性体受動素子の高度化のための文科省事業が始まるなどバルク磁性材料の開発ニーズは大きく高まっている.このため,究極の精度を目指す既存回折法に比べて簡易/迅速かつイメージング性能に優れた本提案の分光法を,こうした喫緊の社会的課題に対応した研究プロジェクトの進捗に活かすようにこれらのプロジェクトとの連携を深める.
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