2020 Fiscal Year Annual Research Report
μeV~neV領域の超単色X線回折法の開発と物質ダイナミクス研究への応用
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19H04404
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
三井 隆也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (20354988)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大和田 謙二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, グループリーダー(定常) (60343935)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子ビーム / メスバウアー分光 / 核共鳴散乱 / 放射光 / 非弾性散乱 / スバウアー分光法 / メスバウアー効果 / X線回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はバンド幅可変の核分光器で放射光から生成したμeV~neV領域の超単色X線を用いて物質のダイナミクス研究に資する超高エネルギー分解能X線回折法を創出させるものである。本年度は、前年度にビームラインに導入した精密γ線回折計を用いて、完全単結晶における熱散漫散乱のX線動力学的回折効果を観測する実験を行った。本実験では、発散角が 1秒以下の平面波の超単色X線をSi単結晶に照射し、(111)(220)面でブラッグ反射した回折X線にメスバウアーレーリー散乱法を適用することで、ブラッグ角近傍で発生するX線熱散漫散乱(TDS)の動力学的回折効果を調べた。その結果、弾性散乱の回折強度曲線の全反射角度領域の中央に明瞭なTDS回折強度の低下が観測された。理論解析を行ったところ、この散乱回折強度の低下は、X線動力学回折理論で予想される消衰効果に関連した現象であることが分かった。このようなX線回折現象は、エネルギー分解能が10nV、角度分解能1秒角以下の超高分解能X線回折法以外では観測が困難なもので、開発した機器および手法の有効性を示す結果といえる。次年度は、本研究を更に深化させるために、前年度に開発した真空・高温実験用回折装置を用い、結晶の温度を融点付近まで上げて超高分解能TDS回折実験を行うことで、非調和熱振動がTDS回折強度やエネルギーに与える影響を調べる予定である。また本年度は、ミクロン程度のスポットを有する集光γ線の生成と精密位置決め機構を精密γ線回折計に増設し、試験測定において、BaTiO3(111)の回折γ線のX線非弾性散乱スペクトルを観測できることまでを確認した。次年度は、強誘電体BaTiO3のドメイン境界付近の局所ダイナミクスの素性解明を目指した走査顕微測定を行うことを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
核分光結晶および完全結晶の非対称反射を利用したX線平行化素子を利用して、ビームの発散角が1秒角以下でエネルギー分解能が約10neVの平面波超単色X線の生成に成功した。この平面波γ線と約50neVの吸収幅を有する核共鳴エネルギーアナライザー(弾性散乱X線のマスクアブソーバー)を併用することにより、Si単結晶のブラッグ角近傍におけるX線熱散漫散乱の回折強度を圧倒的に強力な弾性散乱から完全分離して観測することに成功した。その結果、完全単結晶におけるX線動力学回折効果の一つである消衰距離の角度依存性に関連したX線熱散漫散乱回折強度変化を初めて観測することに成功した。この現象は、エネルギー分解能が10nV、角度分解能1秒角以下の超高分解能X線回折法以外では観測ができないもので、今後のX線熱散漫散乱の動力学回折現象の解明に繋がることが期待される。次年度は、真空高温実験用回折装置を用いた高温領域のTDS回折実験を行い、非調和熱振動がTDS回折強度や散乱X線エネルギーに与える影響を調べることを計画している。また、強誘電体BaTiO3のドメイン境界付近の局所ダイナミクスの素性解明を目指した応用研究の準備として、超高分解能X線回折法を用いてBaTiO3(111)の回折γ線のX線非弾性散乱スペクトルを観測できることまでを確認した。また、本年度の後半には、マイクロメスバウアービームによる顕微測定を行うための精密位置決め機構を精密γ線回折計に増設しており、次年度には応用研究を行うことができると考えている。以上のことから、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も継続してμeV~neV領域の超単色X線回折法の高度化研究を行う。応用研究として、平面波超単色X線による完全単結晶のブラッグ反射付近に生じる熱散漫散乱の非調和熱振動効果の観測や超単色X線による強誘電体ドメインダイナミクスの局所解析に挑戦する。また、本研究で実現させた溶液、高分子材料のガラス転移機構を容易にモニターできる手法の高度化に継続して取り組み、産業材料分析に利用する研究展開を模索する。得られた研究成果の発信として、学術論文投稿や学会報告を積極的に実施する。
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