2020 Fiscal Year Annual Research Report
音楽認知の文化差の生起機序:その神経基盤,脳計算,発達過程の総合的検討
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19H04434
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松永 理恵 神奈川大学, 人間科学部, 准教授 (70399781)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横澤 宏一 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (20416978)
阿部 純一 北海道大学, 文学研究院, 名誉教授 (40091409)
ハルトノ ピトヨ 中京大学, 工学部, 教授 (90339747)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音楽認知 / 調性知覚 / 調性スキーマ / 計算論的モデル / deep neural network / LSTM network |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,人間の音楽認知処理の一大基盤となっている‘調性的体制化(tonal organization)’の処理に焦点を当て,調性知覚に見られる文化的差違の生起機序を検討している。聞き手は,音楽に曝されるだけで,育つ文化に特異的な調性スキーマを獲得し,調性スキーマに基づいて調性知覚を行う。とすると,調性知覚の文化的差異の生起機序を明らかにすることは,音楽に曝されるだけで,聞き手は文化特異的な調性スキーマをどのようにして獲得するのか,その獲得過程の何が文化差を生み出しているのかという疑問を説明することを意味する。 本年度は,この視座の下,文化特異的な調性スキーマの獲得メカニズムを検討すべく,Deep Recurrent Neural Network(DRNN)を用いた計算機実験を実施した。様々な音楽文化を対象にシミュレーション実験を実施した結果,音楽文化の違いを問わず,子どもが1歳前後になす調性スキーマの学習の立ち上げは,曝されるメロディ上において知覚的顕現性の高い特徴(具体的に言うと,旋律の最後の音の高さ)を頼りにしており,その顕現的特徴を足がかりにして,より精緻化されたシステムへと調性スキーマへをブートストラップしていく可能性が高いことが示唆された。本年度は,この研究成果を論文にまとめ,学術雑誌に投稿する準備を進めた。なお,コロナ禍のため,例年よりも国内外の学会発表件数は少なくなり,今年度は4本に留まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大を受けて,大学への立ち入り禁止などが続いたため,十分な実験参加者を確保できず,予定していた心理学実験を完了できなかった。加えて,本研究の目的からして文化比較実験の実施は欠かせないが,海外への渡航が制限されているため,十分な準備も出来なかった。これらが研究が遅れた主な理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,特に2021年度の研究の推進方向としては,以下2種の研究を予定している。1つ目の研究は,調性知覚の文化差の実態をより詳細に理解すべく,音楽文化的背景の異なる日本人,中国人,可能ならばインドネシア人をも対象に含め,彼らの調性知覚を測定する心理学実験を実施することである。2つ目の研究は,理論的アプローチを用いて,文化差の源となる調性スキーマのどこが文化普遍的特性であり,また同時に,どこが文化特殊的特性かを明らかにすることである。2020年度提案した調性知覚のDeep Recurrent Neural Network(DRNN)は,音楽的文化背景の異なる聞き手の調性スキーマ,特に音階に関する知識(音階スキーマ)を十分に再現できるものであることが確認されている。そこで,DRNNを用いて様々な文化の聞き手の音階スキーマを計算機上に再現し,それを文化間で比較することにより,音階スキーマの文化普遍的特徴と文化特異的特徴を見極めていく。
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Research Products
(12 results)