2020 Fiscal Year Annual Research Report
興奮/抑制バランスを制御した培養神経回路によるてんかん発作発生機構の解明
Project/Area Number |
19H04437
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 脳神経 / 細胞・組織 / 神経工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
てんかん発作発生プロセスにおける“final common path”と考えられている神経回路の興奮/抑制(Excitatory/Inhibitory; EI)バランスに焦点を当て,EIバランスを人為的に制御した神経回路をin vitro系に構成してその電気活動計測を行なっている.本年度は,(1) マウスiPS細胞を大脳皮質に分化誘導する過程の薬理操作(SHH経路に対するアゴニスト,アンタゴニストの投与)によりEIバランスの異なる神経細胞集団を形成,電極アレイ基板を利用して神経回路の自発活動を記録し,EIバランスとの対応につき調べる,(2) てんかん発作様活動の誘起を想定した薬理刺激としてGABAA受容体に対するアンタゴニストであるbicucullineを添加した際の自発活動変化を長時間追跡する,という2つの課題につき実験を行なった.課題 (1) については,グルタミン酸とGABAに対する抗体を使用した免疫化学染色により,興奮性細胞の割合が78, 75, 67, 56 % の4種類の系が得られたことを確認した.大脳皮質培養神経回路は特徴的な同期バーストを発生することが知られているが,興奮性細胞比率が減少するに従って非同期の活動が増加し,比率が最も低い系では同期バーストはほぼ見られなくなるという結果になった.課題 (2) については,bicuculline 1 uMの条件下で3日間の自発活動計測を行なった結果,bicuculline添加直後に見られる持続時間の長いバースト活動が,1日後には数10 msの周期で繰り返し起こる活動に遷移し,その後さらに周期が短くなる傾向を示し,同時に空間的な活動伝搬パターンも変化することがわかった.強い活動が生じる状態が継続すると,ネットワークとしての状態も変化することを示唆する結果であり,恒常的可塑性等も考慮する必要があると考えている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経回路を構成する興奮性/抑制性神経細胞の割合を人為的に制御することによって,活動のEIバランス依存性を調べ,てんかん発作が生じる機構に関する知見を得ることを目指している.必要な要素技術として(1) EIバランスを制御した培養神経回路の構成手法,(2) てんかん発作様活動を誘導する電気刺激,薬理刺激プロトコル,(3) 神経回路活動時空間パターンの計測・解析手法,の3つを確立することを課題として設定している.課題(1) については,iPS細胞を神経細胞に分化誘導する過程でソニック・ヘッジホッグ(Sonic HedgeHog; SHH)経路に対するアンタゴニストであるCyclopamine,アゴニストであるSmoothened Agonist(SAG)を投与する期間とその濃度に関する検討を行ない,系に占める興奮性細胞の比率を大凡50 % から80 %の間で制御する条件を見出した.課題(2) については,GABAA受容体のアンタゴニストであるbicuculline を1 uM含む条件下で自発活動を3日間にわたり継続して追跡することができた.従来から広く知られている急性の薬理応答が,時間経過とともに徐々に変化していく様子が記録されており,てんかん発作を生じる基盤となる神経回路としての状態変化につながる知見を得ることが期待できる.課題(3) については,64個の計測点を有するMEA基板に加えて新たに26400電極を集積化した高密度アレイ(そのうち1024点を選択して信号計測を行なう)を導入し,特に活動の発生・伝搬に関する空間的なパターンを詳細に観測することが可能になった.これらの実験データをさらに蓄積し,詳細な解析を行うことによっててんかん発作を生じる機構の解明につながる知見が得られると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
てんかん発作を生じる神経基盤について,特にEIバランスに焦点を当てた理解を目指す立場から,これまでに得られた実験結果を統合し,今後検討すべき課題の整理と合わせて研究成果の取りまとめを行なう.以下2つの視点から今後の進め方について具体的に記述する. 1. EIバランスを制御した培養神経回路の構成 SAGもしくはCyclopamineを作用させることにより,興奮性細胞比率約50 %,80 %の細胞集団を得ることができた.この2種類の細胞集団を混合することにより,原理的には中間の比率を有する系を構築することが可能になるが,混合比から予想されるEIバランスが実測値と必ずしも一致しないことがわかっており,混合プロセスが2種類の細胞集団の生存率に異なる影響を及ぼす可能性があると考えている.この点についてPKH等生細胞染色試薬を利用した定量化を行なう.さらに,EIバランス制御の範囲を拡大する可能性について検討する.SAGもしくはCyclopamineを作用させる条件の検討に加えて,より膜透過性の高い薬物の投与を試みる.並行して,今回のEIバランスの定量化手法をマウス大脳皮質初代培養系に適用し,リファレンスとしてのEIバランス,その自発活動,電気刺激/薬理刺激依存性を明らかにする. 2. てんかん発作様活動の誘起とその基盤となる神経回路状態変化の解明 電気刺激によるてんかん発作様活動の誘導を試みる.動物モデルにおいてkindling刺激が徐々にてんかん発作に発展することが知られており,in vitro系でも類似の報告がある.EIバランスを制御した培養神経回路にkindling刺激類似の条件で電気刺激を印加して自発活動の経時変化を記録,そのEIバランス依存性を明らかにする.薬理刺激に対する神経回路自発活動の変化については,時間的な階層構造,空間的な伝搬パターンの2つの視点から詳細な解析を行う.
|