2019 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト初代肝細胞をin vitroで増殖させ長期生存できる革新的培養システムの開発
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19H04439
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
興津 輝 東京大学, 生産技術研究所, 特任教授 (10378672)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 初代肝細胞 / 細胞培養システム / 細胞ファイバ技術 / コアシェルマイクロファイバ |
Outline of Annual Research Achievements |
肝臓は生体の恒常性維持に寄与する重要臓器のひとつであり、その構成主要細胞である肝細胞を生体外で維持することは、医学分野での生理・病理の解明のみならず、医療/創薬分野における治療法/医薬品の開発にとって必須であると考えられている。しかしながら、生体より取り出した肝臓から分離した初代肝細胞は既存の一般的な培養方法ではその本来の機能を急速に失うため、多くの施設へ導入可能な新たな初代肝細胞の培養システムの構築が望まれている。 本研究の目的は、細胞ファイバ技術を応用することによって、細胞分裂能と代謝・分泌能を維持したまま長期間にわたり初代肝細胞を培養することができるシステムを開発することである。細胞ファイバ技術とは、マイクロファイバ状の3次元組織を構築する技術である(Onoe H, Okitsu T, Takeuchi S, et. al. Nat Mater, 2013)。すなわち、マイクロ流体力学を応用してできる同軸2層流の内層に細胞と細胞外マトリックス(ECM)を配置し、外層にアルギン酸を配置する。その後アルギン酸をCa2+ に暴露してゲル化させることで外殻(シェル)が形成され、直径約0.2mmのマイクロファイバ状の細胞封入体を作製できる。この細胞封入体を培養すると内核(コア)部分にファイバ状の3次元組織が構築される。以上の細胞ファイバ技術を用いたコアシェルマイクロファイバの作製とコア内への細胞の封入は、非常に単純な造りのデバイスによって可能となるため、他施設への普及は容易であると考えられる。 研究実施計画の1年目となる2019年度は、まず、ラット初代肝細胞をコアシェルマイクロファイバに封入し、代謝・分泌能を維持したまま長期培養が可能であることを実証した。続いて、コアシェルマイクロファイバに封入したラット初代肝細胞の増殖を誘導する成長因子の準備のための検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、初代肝細胞が細胞分裂能を発揮し、代謝・分泌能を長期間維持できる培養デバイスとして機能するよう、コアシェルマイクロファイバを開発する。培養デバイス作製の条件を検討には、使用する初代肝細胞の品質を均一化する必要があるため、ラット由来のものを使用した。封入当日に自施設にて分離し、生存率85%以上のものを実験に用いた。 研究実施1年目は、計画に沿って、まず、ラット初代肝細胞がコアシェルマイクロファイバ内で、代謝・分泌能を維持したまま長期培養できることを検証した。それに先だち、コア内に配置する際のラット初代肝細胞の初期細胞密度の検討を予備実験として行った。具体的には、1x10^7、2.5 x10^7、5 x10^7、9 x10^7 cells/mlの条件でラット初代肝細胞を封入し、48時間培養を行ったところ、9 x10^7 cells/mlの群にのみファイバ状組織形成が認められた。それ以外の群では、複数のスフェロイド状の細胞塊の形成が認められたのみであった。9 x10^7 cells/mlの初期細胞濃度でラット初代肝細胞をコアシェルマイクロファイバに封入し、培養2,4,7,21,30日目に細胞数、生存率、アルブミン分泌、尿素合成能、CYP活性の評価を行った。その結果、ラット初代肝細胞はコアシェルファイバ内で培養30日目まで生存し、代謝・分泌能を維持することが判明した。なお、対照群である、コラーゲンコート培養皿状での培養では、培養14日目にラット初代肝細胞が全て浮遊し、その生存を認めなかった。 次に、コアシェルマイクロファイバに封入したラット初代肝細胞を増殖させるための成長因子を準備した。既報に基づき、マウス線維芽細胞由来 NIH/3T3 のコンディションメディウムを用いることにした。HGF(肝細胞増殖因子)の含有量を指標にして、培養条件、メディウム採取のタイミングを決定した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施1年目は、ラット初代肝細胞を用いて、その培養デバイスとしてコアシェルマイクロファイバを作製する諸条件を検討することができた。そして、9 x10^7 cells/mlの初期細胞濃度でラット初代肝細胞を封入したコアシェルマイクロファイバでは、48時間後にラット初代肝細胞がファイバ状の組織を形成し、代謝・分泌能を保持して30日間培養可能であることを実証できた。当該実験にて、細胞数の経時変化から、ラット初代肝細胞は増殖していないことが判明した。用いた培養液が成長因子を含有していないことがその要因と考えられた。 次年度にて、コアシェルファイバ内で、ラット初代肝細胞が増殖できることを検証する予定である。そのため、培養液に添加する成長因子の準備が必要となるが、これは今年度中に完了することができた。具体的にはHGF(肝細胞増殖因子)とEGF(上皮細胞成長因子)を含む、マウス線維芽細胞由来 NIH/3T3 のコンディションメディウムの調整方法を検討し、効率的な方法を見いだすことができた。 なお、この度の予備実験で得られた知見は、コアシェルファイバ内でのラット初代肝細胞の増殖の検証に有用と考えている。当該予備実験では、コアシェルファイバ内への封入後にラット初代肝細胞が形成する組織形態が、初期細胞密度に依存して変わることが分かった。そのため、増殖の有無を、形態の違いとして認識できる可能性がある。すなわち、5 x10^7 cells/ml以下の初期細胞密度でラット初代肝細胞をコアシェルマイクロファイバに封入し、増殖刺激をおこなって、ファイバ状組織を形成すれば増殖しており、スフェロイド状組織を形成すれば増殖していない、あるいは、増殖は軽度であると認識できる。 次年度は、ラット初代肝細胞の増殖の検証に加えて、コアシェルマイクロファイバ内での培養ラット初代肝細胞の薬剤作用検出能の検証を予定している。
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