2021 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Spin Coherent Microscopy with Time and Space Resolutions Dedicated for Quantum Information Processes
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19H05621
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
米田 忠弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30312234)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 克之 東北大学, 理学研究科, 助教 (30451511)
加藤 恵一 城西大学, 理学部, 准教授 (80374742)
佐藤 和信 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90264796)
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Project Period (FY) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / トンネル分光 / 量子コンピューター / スピンダイナミクス / RF照射 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、量子情報を格納する分子として、単分子磁石(SMM) に注目し、単一分子で磁石として働く特性を利用した量子ビットに向けた開発が順調に進捗した。中心に4f金属であるTbをもつTbPc2を主として用いたが、4fが持つスピンの方向を量子情報として用いることを動作原理としている。分子の持つスピン状態が十分に精密で、量子コンピューターのキュービットとして動作することはESRやNMR手法で証明されているが、今後量子コンピューターの材料と資するためには、ESR/NMRに替って電流での読み書きが必須である。分子の4fのスピン情報を電流で取り出すには、自由電子と、局在した4f電子の結合が弱いため、その手法が必要な要素技術である。本年度は、4f電子スピンと配位子であるフタロシアニンに存在するパイ電子のスピンとの交換相互作用エネルギーEexを検知する手法を開発した。パイ電子と伝導電子は強く結合するためEexを検知・コントロールすることで4f電子スピンの電子での読み出しに貢献する。本年度の研究においては、超伝導体の鋭い電子状態を利用してEexエネルギーを世界に先駆けて検知した(ACS ano, doi.org/10.1021/acsnano.1c11221)。同時に、超伝導体表面に磁性不純物が吸着したときに生じる、Yu-Shiba-Rusinov (YSR)状態が得られることが知られているが、YSR状態はスピン状態に敏感に応答し、スピン状態検出の重要な手法になると期待されている。本年度4fスピン由来およびラジカル由来のYSR状態を世界に先駆けて検知した。また同時にYSR特性がTb核スピンの共鳴状態をRF入射と磁場印加の組み合わせによって作り出すことで、共鳴的に変化することを見出し、今後の化学分析および量子ビットコントロール手法に有用なことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分子を量子コンピューターのキュービットとして資する材料となるためには、多くの要素技術の克服が必要である。分子の精密な電子状態・スピン状態は量子ビットとして実用に資することは従来のESR/NMRですでに検証されているが、実際の量子コンピュータとして用いるためには電子によるスピンの読み書きが必須となる。そのために、電極と接合し、分子を流れる電流が分子のスピン依存する特性を利用する手法が有効である。分子材料として4f金属原子を含む単分子磁石は高い温度でも4fスピンの情報を保持可能であり、有力な量子ビットの候補である。しかしながら、4f電子の局在性から、そのスピンと自由電子の結合は容易ではない。超伝導体を電極として用いることで、(1)磁場の存在で敏感に変化する超伝導体の特性を生かしたスピン検知、(2)超伝導体がクーパー対を形成することによる対称分子スピンの雑音耐性の向上を目論見その組み合わせに注目する。特に(1)により従来困難であった分子の4f原子のスピン状態の電流による検出を可能としようとする。本年度の研究で、非弾性トンネル分光を用いた、分子内交換相互作用エネルギーの検出、および分子の磁性でが生じるYu-Shiba-Rusinov状態の検出に成功し、さらに4fスピン状態の検出に向けて順調に進行している。加えて、Tbの核スピンの情報は外部からの擾乱・雑音耐性の高い特性を持つことが知られている。本年度にはYSR状態が核スピンの共鳴条件下でその強度が共鳴的に高まることを世界に先駆けて見出した。この実験は本プロジェクトで整備した高周波RF信号の導入と磁場制御で初めて可能となった実験であり順調に進行している。共鳴条件の磁場・RF周波数の検出を用いることで従来のNMR手法でと同等の手法を原子レベルで検出する新しい化学分析にもつながる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降においては、本年度までに核スピンの電流による検出が実証されたことから、この技術を更に展開、高精度化することで、化学分析の手法としての開発を促進する。同時に量子情報処理に向けたキュービットとしての活用の両面からすすめる。前者に関しては、電流を用いたNMR手法はその高い分解能と感度から、実現されれば従来のNMRやMRI技術に大きな変革をもたらす技術であることから、その早急な分析能力を確立しようとする。そのためには現在まで実証したLnPc2(Ln ランタノイド金属、Pcフタロシアニン)のLnに関して多くの核スピン状態を持つ分子を設計する。この作業には、城西大学・加藤らが分子合成・設計をすすめる。実験的な検証は精密なNMR測定を大阪公立大・佐藤らが担当する。分子種としてはDyを中心金属として選択肢、Dyの核スピンが5/2でありTbの場合に3/2に比較して多くの核スピン準位を含み、量子ビットとしても多価キュービット、すなわちQUDITとして活用される可能性を持っており、その詳細を調べる。量子ビットのエンタングルメントの検証に、昨年までに作成と検証を終えた、ポンプ・パルス手法を用いたRF入射を用いたスピンの書き込みと読み込みに関して、LnPc2分子について蓄積された知見を用いて行う。このためには4fスピンのRFによる操作をゲート操作とみなして、スピンの書き込みを行い、量子状態の読み取りを別のRFで行う手法を世界に先駆けて開発する。
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Research Products
(10 results)