2020 Fiscal Year Annual Research Report
がん特異的酵素活性の網羅的探索とこれに基づく革新的中性子捕捉療法プローブの創製
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19H05632
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浦野 泰照 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20292956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石沢 武彰 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (10422312)
田村 磨聖 大阪大学, 核物理研究センター, 特任講師(常勤) (20747109)
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Project Period (FY) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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Keywords | 蛍光プローブ / 中性子捕捉療法 / 量子化学計算 / がん / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
がんを始めとする難治性疾患に対する治療法の確立は、現在の日本において極めて重要な課題であり、イメージングをはじめとする様々な基礎解析技術が全世界的に開発され、画期的な成果が近年多く挙げられている。この中で研究代表者らはこれまでに、世界初の独創的なアプローチである「化学蛍光プローブ」を活用した「臨床検体ライブイメージング」に基づき、全く新たな診断・治療技術の創成研究を展開し、画期的な精密蛍光ガイド手術等を実現する多くの成果を挙げてきた。しかしながら、これまで開発してきたプローブでは可視化できないがん種もまだ多く、さらに蛍光プローブなどの光学的手法は深部イメージング・治療には適用できない。そこで本基盤S課題ではこれらの問題点を解決すべく、①量子化学計算に基づく蛍光プローブの論理的設計法の確立とこれに基づくプローブライブラリーの構築、②深部微小がんに適用可能な中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy; BNCT)プローブの開発を中心課題として、従来法では可視化できないがん種のがん特異的バイオマーカー酵素を発見して迅速蛍光イメージング技術を確立し、また深部微小がんの治療・発見を実現する革新的BNCTプローブの創製を図る。 本年度は、量子化学計算に基づく分子内spiro環化平衡予測法の確立と開発したプローブのin vivo臨床イメージング応用・超解像イメージング応用に関する研究と、キノンメチド化学に基づく新たなBNCTプローブの設計・開発とin celluro評価に関する研究を行い、進捗状況項に記載した成果を得て、一部に関しては論文公表と特許申請を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題の重要な課題の一つが、これまでは開発できなかった特性・機能を有する蛍光プローブの開発である。本年度は、昨年度に確立した密度汎関数法量子化学計算に基づく新規蛍光プローブの論理的設計法をさらに拡大し、新たにヒドロキシメチル基による求核反応をキサンテン環と競争させるという新しい発想に基づく、新規シトクロムP450酸化酵素活性検出蛍光プローブの開発に成功した。また昨年度に引き続き、新たに黄色ペプチダーゼ蛍光プローブを開発し、これまでに開発した緑色、橙色蛍光プローブと共に活用することで、迅速かつ高感度な多色蛍光in vivoがんイメージングが可能であることを確認した。さらに本設計法により、ライブ超解像イメージングに資する様々な波長の自己明滅型蛍光プローブ群の開発も可能であるため、様々な蛍光色で明滅する特性を有する世界初のプローブ群を開発し、その適用によるライブ超解像イメージングに成功し、これらの成果をまとめて論文公表を行った。 本申請課題のもう一つの重要な課題である新規BNCTプローブの開発に関しては、本年度は新たに、がん細胞内にホウ素クラスターが強く滞留される機構として、がん細胞特異的な酵素活性によって(aza)quinonemethideが分子内に生成するプローブの開発を行った。これまでに、特定のアミノペプチダーゼ活性が高い細胞に選択的に高集積性を示すホウ素クラスタープローブを設計・合成し、生細胞系へと適用してその蓄積ホウ素量を原子吸光法で定量すると、BNCT治療に必要とされるホウ素原子が蓄積していること、及び細胞外液を数回交換して細胞をwashしても、細胞内タンパク質とホウ素クラスターが共有結合しているため、がん細胞に蓄積したホウ素量はほぼ変化しない、など、デザイン通り画期的なBNCTプローブとしての性能を有することが明らかとなったため、この特許申請を完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請課題の重要な課題の一つが、これまで開発してきたプローブでは可視化できないがん種に対する術中迅速がんイメージング技術の確立である。本年度までに確立した、分子内spiro環化平衡の量子化学計算による精確予測、及びその拡張による2つ以上の求核性置換基の競争にに基づく各種蛍光プローブの論理的設計法を活用し、新たに脂肪族アルデヒドを生成する様々な酸化還元酵素に対する蛍光プローブを開発し、プローブライブラリーの拡充を図る。さらにその機能検証をin celluro系で行い、細胞膜透過性や細胞内局在などがターゲット酵素に適合した真に実用性が高いプローブ群を開発する。 プローブライブラリーを活用したバイオマーカースクリーニングについては、分担研究者の石沢、及び外部の研究協力者と協同して、胆管がん、肺がん、大腸がん、小児がんの新鮮臨床検体由来のライセートを用いた網羅的なスクリーニングを継続して行い、絞り込まれた候補プローブの臨床検体での機能検証を通じて、可視化プローブとして有効なプローブの策定と、責任酵素の同定を目指す。 革新的BNCTプローブの開発に関しては、本年度に開発したがん細胞特異的な酵素活性を活用して細胞内滞留性を獲得するホウ素クラスタープローブのBNCT治療機能評価を、分担研究者の田村が改良した装置を用いて中性子線を照射して、詳細に行う。同時に、従来型のプローブであるホウ酸フェニルアラニンプローブとの細胞殺傷効果の比較検証も詳細に行い、必要に応じて細胞内局在や滞留性を改良して、動物実験レベルでも使用可能な性能のプローブ開発を目指す。 以上のように、課題達成に必須となる基礎技術の確立から、徐々に臨床技術として実用的なプローブ開発研究に軸足を移し、本課題の最終ゴールである、「従来法とは一線を画す」深部微小がんの選択的治療、検出を実現する新規がん医療技術創成の早期達成を目指す。
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Research Products
(28 results)