2019 Fiscal Year Annual Research Report
多階層光遺伝学による大脳皮質の認知・学習機構の解明
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19H05642
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大木 研一 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50332622)
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Project Period (FY) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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Keywords | 視覚野 / イメージング / 光遺伝学 / 神経回路 / 情報処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
スパインイメージングによって、個々のスパインにどのような情報が入力するかを計測し、それが細胞体の活動電位とどのように関係するかを調べる方法を開発した。GCaMP6sをcre-loxPを用いて、少数の神経細胞だけに発現させ、細胞体で2光子カルシウムイメージングを行ってから、スパインでもカルシウムイメージングを行い、ある細胞にどのような情報が入力し、どのような情報が出力していくのかを調べる方法を開発した。 この方法は、神経細胞が行う計算を解明する上で非常に強力な手法であると考えられるが、残念ながら欠点があった。細胞体で活動電位が発生すると、活動電位は樹状突起へ逆伝播し、電位依存性のカルシウムチャンネルを開口する。これにより発生するカルシウム流入は、スパインのNMDA受容体からの流入量を凌駕し、シナプス入力のシグナルをマスクしてしまう。この問題に対処するため、樹状突起のシャフト部分のシグナルに係数をかけて引き算する等の方法が用いられていたが、引き算の係数を決める方法に不確実性があり、引き算の仕方に結果が大きく依存してしまっていた。従って、正しいシナプス入力のシグナルを計測するためには、引き算に依存せず、活動電位の逆伝播を停止させる必要があった。その方法として、in vivoで活動電位の逆伝播を停止させながら、スパインの2光子カルシウムイメージングを行う方法を開発した。 光照射により神経活動を抑制する方法は、抑制型チャネルロドプシンの登場以来多く使われてきたが、イメージングとの組み合わせは難しく、光で抑制しつつ光でイメージングをすることは行われてこなかった。私たちは、ステップ関数型の抑制型チャネルロドプシンを用いて、一過性の光照射で細胞体を不活性化し、その間にスパインイメージングを行うことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ステップ関数型の抑制型チャネルロドプシンを用いて、in vivoで一過性の光照射で細胞体を不活性化し、活動電位の逆伝播を停止させながら、その間にスパインイメージングを行う方法を開発することに成功した。これにより、細胞体で2光子カルシウムイメージングを行ってから、スパインでもカルシウムイメージングを行い、ある細胞にどのような情報が入力し、どのような情報が出力していくのかを調べることが出来るようになった。この方法は、神経細胞が行う計算を解明する上で非常に強力な手法であると考えられ、今後、脳の情報処理の素過程として、個々の神経細胞がどのような情報の入力を受け、それを組み合わせて、複雑な情報を出力しているのかを解明するための、大きな一歩となった。
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Strategy for Future Research Activity |
高次視覚野で、複雑な機能を実現する神経回路についてはほぼ全く知られていない。この理由の一つとして、高次視覚野の神経細胞の受容野が非線形的であるため、それを系統的に調べる方法がないという問題がある。この問題について、深層学習(deep learning)を用いて、高次視覚野の神経細胞の非線形で複雑な受容野を系統的に調べる方法を開発し解決することを計画する。 一次視覚野の単純細胞の性質は、線型システム解析により、その受容野の構造が詳細に調べられているが、複雑型細胞の性質は、その強い非線形性により、系統的に調べることが難しくなる。さらに高次の視覚野では、複雑な図形に対する選択性と強い非線形性が加わって、最適刺激を系統的に調べる方法がなく、あるレパートリー内の刺激を提示して良く反応する刺激を検索することしかできていない。この問題を解決するため、様々な視覚刺激に対する高次視覚野の細胞の反応を、深層学習のネットワークに忠実に写し取り、そのネットワークの挙動を詳細に調べることによって、高次視覚野の細胞の機能を系統的に解析する方法を開発する。テストとして、この方法を、非線形性を持つ一次視覚野の複雑型細胞に適用したところ、位置不変性を持つ複雑型細胞の受容野を捉えることに成功した(Ukita etal., 2019)。シミュレーションでは、さらに複雑な選択性を持つ細胞の受容野推測にも成功しており、この方法に改良を加え、高次視覚野の神経細胞の受容野を系統的に調べる方法を開発する。
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Research Products
(29 results)