2020 Fiscal Year Annual Research Report
Dissecting the mechanism underlying behavioral regulation through real-time spatiotemporal manipulation of neural circuits
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19H05644
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
森 郁恵 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90219999)
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Project Period (FY) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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Keywords | 神経回路 / ばらつき / 光遺伝学 / 光操作技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、機能的ネットワークの状態および個体の行動状態をモニターしながら、それらの状態に応じてAFDなどの単一ニューロンの光操作を行うリアルタイム光操作技術、および機能的ネットワークの状態を操作する技術を開発し、それにより特定のニューロンの活動が「ばらつきのある行動」に変換されるまでの一連の情報処理プロセスを明らかにすることを目指している。これまでに引き続き、蛍光時系列画像の自動認識に深層学習であるYOLOv3を用いることで、自動認識の精度が向上した。対象にしているSMD運動神経細胞の認識において、4箇所の特徴点それぞれで96.1%, 70.1%, 57.0%, 54.3%の精度を達成し、またGPUマシンを利用することで1秒間に30枚の画像処理を実現し、実時間で蛍光計測をしながら自動認識させる目処がついた。リアルタイム光操作技術の要となる自動認識の方法が着実に改善されていることで、研究目的の達成が期待される。また顕微鏡のハードウェアについても、スピニングディスク共焦点顕微鏡の導入を行い、自由行動中の個体を追尾する高速トラッキングシステムと組み合わせた高速3次元データ取得環境を整えた。自由行動中に神経細胞のz方向の位置が異なる場合でも、この高速3次元データ取得システムを用いれば、同時に計測することが可能となる。さらに計算・ファイルサーバの導入を行い、3次元時系列データのような大容量のデータ処理を行う環境を整えた。既に取得、保存している蛍光カルシウムイメージングのデータなどはバックアップと共に移行し、新たにデータ取得できる容量も十分確保した。光遺伝学実験についても、フィルターセットや光照射の検討を重ね、神経活動の操作と計測を同時に行うための蛍光タンパク質の検討を行い、最近発表された蛍光カルシウムインディケーターであるXCaMPなどを用いた実験系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画としてリアルタイム光操作技術の開発を研究期間の前半に行う予定であり、これに基づき、着実に開発が進んでいる。リアルタイム光操作技術は、顕微鏡光路などのハードウェアと、画像データを処理するソフトウェア、そして生体におけるオプシンや蛍光タンパクの発現操作のウェットウェアの側面があるが、それぞれの面で着実な進捗がある。特に当初からの研究計画に入っていた、スピニングディスク共焦点顕微鏡や、高速な画像処理の導入、トラッキングシステムとの組み合わせなどが着実に進んでおり、計画通りの進捗が得られている。さらに、研究計画の一端を担うハイスループット行動計測システムの成果が前倒しで得られており、論文としての成果発表の後も、この計測システムを用いた実験や解析が進んでいる。開発しているリアルタイム光操作技術との相乗効果も期待でき、変異体を用いた特定の遺伝子に関連した機能解明についても今後の発展が期待される。 光遺伝学の新しいツールを用いた実用的な実験条件も得られてきており、計画立案当初では想定していなかったさまざまな展開や改善なども期待できるようになった。オプシンや蛍光カルシウムインディケーターなどのツールは開発が活発な分野であり、頻繁に発表される新しいツールから利用できるものを選ぶことで、本研究の目標達成に近づいている。さまざまな特性のツールを選択する上では、予期しない動作を示すものや過敏に働くものなどもあったが、実用的な実験条件で動作する組み合わせが見つかってきており、今後の研究の推進に役立つものが揃ってきている。さらに世の中の機械学習研究の発展が後押しし、画像処理などの方法も充実したものとなっている。今後も発展する研究分野全体の成果や、公開されるツールなども利用することで、本研究の目標達成が計画当初よりも発展した形で実現できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に基づき、引き続きリアルタイム実験系の開発を進め、同時に実際の光操作実験に向けた調整を行う。このリアルタイム実験系の開発に伴って、光パターン照射装置の開発を進め、動いている個体を顕微鏡下で計測しながら、特定の神経細胞へのみ光照射する実験系の構築を目指す。実験系の構築に伴って、本研究で注目する機能的ネットワークに関与する神経細胞がどんな感覚受容によって、どの行動の成分の確率をあげるかを確認する。温度走性には最も重要な行動戦略としてIsothermal Tracking(IT)があり、本研究の成果であるIkeda et al.(2020)により、AFDに加え、ASI, AWCなどのいくつかの感覚神経細胞が関与していることを報告した。今後は、感覚神経細胞それぞれが様々な温度変化によってどの成分の行動出力を制御するかを解析する。 また、行動のばらつきを生み出す機構を解明するために、神経-組織相互作用も視野に入れ、全身で温度を感じる機構についても解析を進める。線虫では神経細胞間の構造的ネットワークは明らかにされているが、近年、記憶や老化など様々な生命現象に関して、神経系の機能だけでは理解できないことが明らかになってきた。そこで温度勾配上で自由に行動する際に、線虫が感知する温度変化に対し、神経細胞のみならず、非神経組織が応答性を示すかどうかを、すでに構築されたリアルタイム光操作技術を用いて確認する。また遺伝学的な解析の強みを活かし、イネキシンやニューロペプチドなど、神経回路の機能に重要な遺伝子と行動制御の関連性を、リアルタイム実験系を利用して解析する。これまで解析が難しかった神経活動を制御する因子に対して、計測可能範囲を広げた提案手法により新たな発見を目指す。以上の方策に従って、リアルタイム実験系と光遺伝学実験の融合による本研究の目的達成を目指す。
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Research Products
(2 results)