2019 Fiscal Year Annual Research Report
日本書紀を中心とした東アジア漢字文化圏における書記用文体の成立と交流に関する研究
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19J00120
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
葛西 太一 國學院大學, 文学研究科, 特別研究員(PD) (20869200)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 日本書紀 / 古風土記 / 書記用文体 / 和漢比較 / 東アジア漢字文化圏 / 日本書紀区分論 / 和習 / 古訓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は「古風土記」をはじめとする他の同時代文献を研究対象として、『日本書紀』との文体的特徴に関する比較研究を進めた。上代文献の中でも漢語漢文による述作を目指したものとしては、『日本書紀』の他に『常陸国風土記』『肥前国風土記』『豊後国風土記』が挙げられる。これらの文献に共通して見られる説話について、それぞれが選択している文体と描かれている内容との関係を精査することにより、どのような文体や語彙の共有関係が認められるのか検証した。これらの研究成果は次に掲げる口頭発表と研究論文において公表している。 第一に、中国と韓国において口頭発表を行った。陝西省西安市にて開催された「西安日本学研究会」第12回月例会(2019年6月30日)では「日本書紀に見る書記用文体の模索と展開」と題した発表を行い、釜山大学校にて開催された「国際シンポジウム 日語日文学研究の現在」(2019年8月27日)においては研究現況報告を行って学術交流を図った。第二に、上智大学にて開催された「和漢比較文学会」第38回大会(2019年10月6日)において「日本書紀における語りの一方法 ―由来を示す「縁也」の表現形式をめぐって―」と題した研究発表を行い、当該内容を整理して学会誌『和漢比較文学』に投稿し、現在、審査を受けている。第三に、國學院大學にて開催された「國學院大學國文學會」令和元年度秋季大会(2019年11月17日)において「日本書紀に見る国家統治の考え方と編修方針 ―「天皇之威」から「皇祖之霊」へ―」と題した研究発表を行い、当該内容を整理して『上代文学研究論集』第4号に投稿し、「日本書紀における「頼」字の古訓と解釈 ―統治の拠り所をめぐる「天皇」概念の転換―」と改題して掲載された。第四に、「萬葉学会」の学会誌『萬葉』第229号に「上代文献における「河上」「川上」の語義と表記」と題した研究論文が掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した通り、本年度の研究目的は「古風土記」をはじめとする他の同時代文献を研究対象として、『日本書紀』との文体的特徴に関する比較研究を進めることにある。その研究成果は、二度の海外学会口頭発表、二度の国内学会口頭発表、三本の学術雑誌投稿論文によって公表しており、おおむね当初の計画を順調に進展させている。 具体的な内容については、たとえば「萬葉学会」の学会誌『萬葉』第229号に投稿した「上代文献における「河上」「川上」の語義と表記」において、『日本書紀』と『肥前国風土記』に見られる説話に共通する特徴を見出しつつ、両書に共通して使用される「川上」という語彙の解釈について分析を行った例が挙げられる。当該論文では、漢語本来の用法では「かわのほとり」を意味する「川上」について、上代文献中には和語「かわかみ」の意味に用いる例が散見し、両様の語義が同一表記のもと『日本書紀』中に混在することを指摘した。漢語本来の意味を離れて和語「かわかみ」の意に用いられる例が天神・天孫の降臨地や荒神・石神等の所在地に多く見受けられ、漢語漢文に熟達した人物の述作が想定される『肥前国風土記』にも共有されている点は興味深い。異なる文献に類似の説話があり、そこに同一の特殊な語彙語法の使用が認められることは、文体の同時代的な共有関係を捉えるうえでの一つの指標となり得る。どの程度『肥前国風土記』が『日本書紀』を受容して述作されたのかは未解明であり、他の古風土記との関係性を踏まえた文体研究にまで展開させられていない点に課題を残すが、これらの内容は次年度以降にも継続して取り組むことを考えている。 なお、当初の計画では第2年度目(2020年度)に海外での実地調査を予定しており、東アジアにおける文字・文献の交流に関する学術交流や関連書籍の現地購入を計画していたが、予定を早めて本年度中に中国・韓国における実地調査を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度目にあたる本年度では、前年度の研究課題に継続して取り組みつつ、『日本書紀』より後に成立した『続日本紀』や『日本霊異記』等の文献との文体比較を中心に調査・研究を進める。第1年度目の研究が共時態として古風土記をはじめとする同時代文献との文体比較を行ったものであるのに対し、第2年度目の研究は通時態として後継の官撰史書や説話集における文体を対象に比較検討を進める。本研究の目的は、第一に、八世紀初頭における書記用文体ないし介在言語の成立を窺い、第二に、六朝・初唐の漢籍・仏典、あるいは百済出土の木簡等との比較を通して漢字文化交流の実態を明らかにすることにある。本年度は、後続する史書である『続日本紀』や説話集である『日本霊異記』との文体比較を行い、『日本書紀』に見られる文体の特徴を通時的に捉え、通史的な視点をも含めた文体論へと本研究を展開させることにより、本研究の目的の推進・達成を図る。 如上の研究によって得られた成果は関係学会にて発表を行い、専門的な指導・批正を求めるつもりである。そのうえで、研究論文として取りまとめ、学会誌への投稿を積極的に行い、研究成果の結実と公表を図りたい。ただし、新型コロナウイルス感染症の蔓延に応じた緊急事態宣言の発出等によって、国内各種学術学会の開催が中止になることが想定されるため、状況に応じて研究計画を変更せざるを得ない場合がある。 なお、当初の計画では第2年度目にあたる本年度に海外での実地調査を予定していたが、今般の新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延に伴う海外への渡航中止勧告等を受けて、本年度中の実施は予定を変更して中止する。海外での実地調査は既に前年度中に実施済みであるため当初の目的は達成されているものの、本研究が東アジアにおける文字・文献の交流を対象として行う性質上、第2年度目の研究状況に応じて第3年度目にも海外での実地調査を行う可能性がある。
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Research Products
(6 results)