2020 Fiscal Year Annual Research Report
マルチメッセンジャー天文学を用いた天体高エネルギー粒子起源の探求
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19J00198
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
木村 成生 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 特別研究員(PD) (20865795)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ガンマ線天文学 / 電波銀河 / ブラックホール降着流 / 宇宙ジェット / マイクロクエーサー / 非熱的放射 / 宇宙線 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主に「活動銀河核の強磁場降着流からの高エネルギー粒子放射」と「マイクロクエーサーSS433からの高エネルギー粒子放射」について現象論的な研究を行なった。 ・活動銀河核の強磁場降着流からの高エネルギー粒子放射 2019年4月にEvent Horizon Telescopeが電波銀河M87のブラックホールの影の撮像を報告し、大きな話題となった。電波銀河M87からは電波から超高エネルギーガンマ線に至る幅広い波長帯の光子が観測されているが、ガンマ線の生成機構・生成領域はよくわかっていない。電波銀河の降着流では磁場が非常に強くなっており、そこでは非熱的な宇宙線が効率よく生成されると考えられる。私は降着流で加速された陽子と電子とそれらが生成する電子・陽電子対からの放射を計算し、降着流から放射されているガンマ線がM87のガンマ線データを説明できることを世界で初めて指摘した。この場合、電波銀河の降着流からのニュートリノは次世代検出器IceCube-Gen2で検出可能であることも示した。 ・マイクロクエーサーSS433からの高エネルギー粒子放射 マイクロクエーサーは銀河系内にある高密度天体と恒星からなる連星系であり、高密度天体へと物質が落ち込むことでX線で明るく輝く天体である。SS433はマイクロクエーサーの中でも質量降着率が最も大きな種族であり、歳差運動をしているジェットが観測されている。このジェットから超高エネルギーガンマ線が検出されており、そこでは非熱的な宇宙線が生成されていると考えられている。これまでの研究では超高エネルギーガンマ線の起源として、ジェットで加速された宇宙線電子からの放射が主に議論されてきた。私はジェットで加速された陽子が周囲の物質と相互作用すること発生するガンマ線を計算し、陽子からの放射でも観測されている超高エネルギーガンマ線を自然に説明できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高エネルギー宇宙物理学では多くの興味深い観測結果が報告され続けており、その都度、研究計画と照らしながら研究対象を決断している。2018年には銀河系内のマイクロクエーサーSS433から超高エネルギーガンマ線の検出が報告され、ついで2020年に高エネルギーガンマ線の追解析結果が報告された。我々はそれを受けて素早くこの天体からのガンマ線放射機構について議論し、2020年中に論文を出版することができた。また、2019年に報告されたEvent Horizon Telescopeチームのブラックホールの影の撮像も大きな話題となった。チームが観測した電波信号の放射源は強磁場降着流であると考えられており、その物理過程に注目が集まっている。我々は強磁場降着流では非熱的な高エネルギー粒子が効率的に生成される可能性を見出し、降着流からは強いガンマ線が放射されること、またそのガンマ線は発生機構・発生場所が未知であった電波銀河からのガンマ線の起源となり得ることを指摘する論文を出版することができた。業界で注目が集まっている現象に関して素早く論文を書き上げることができたため、計画以上に研究が進展したと言えるであろう。計画していた数値シミュレーションによる宇宙線加速現象の研究に関しては、磁気流体シミュレーションの計算コストが予想以上に大きかったが、長時間シミュレーション計算を行うことで多くのデータを集めることができている。次年度中にデータを解析し、論文にまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
高エネルギー宇宙物理学では多くの興味深い観測結果が報告され続けているため、今後も大きな関心を集める観測結果が新たに出れば、その都度、研究計画と照らしながら研究対象を決断していく予定である。 銀河系内のマイクロクエーサー天体SS433からは2018年に超高エネルギーガンマ線が検出されており、この天体は大きな注目を集めている。宇宙ジェットによる宇宙線生成という類似性があるため、計画していた電波銀河ジェットの研究は、今後はマイクロクエーサーSS433の研究へと置き換えて進めていく予定である。 一方、降着円盤での粒子加速シミュレーションの研究は現在進行中である。これまでに行ったシミュレーション結果のデータ解析が進んでおり、動的乱流場や磁気流体シミュレーションの解像度が宇宙線粒子の運動に与える影響について理解が深まってきている。次年度中に論文にまとめて出版したい。 また、2021年4月に、チベットASγ実験が400兆電子ボルトを超えるエネルギーのガンマ線を用いて、約1000兆電子ボルトの高エネルギー宇宙線を加速している天体、「ぺバトロン」が銀河系内に存在していることを示した。この結果からは宇宙線の起源天体は同定できていないが、有力な銀河系内天体としてブラックホールX線連星が考えられている。今後、活動銀河核の研究で得られた知見を生かし、銀河系内のブラックホール連星がぺバトロンとなりうるのかを議論していきたいと考えている。
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