2019 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア品質管理タンパク質による抗ウイルス免疫応答制御機構の解析
Project/Area Number |
19J00215
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
森山 美優 福岡大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 抗ウイルス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアの機能的恒常性はオートファジー(マイトファジー)による損傷ミトコンドリアの分解によって維持されている。ウイルスの感染はミトコンドリアを介した抗ウイルス応答や炎症応答を惹起するとともにミトコンドリアの損傷を引き起こすことが知られているが、その詳細なメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究ではインフルエンザウイルス認識機構におけるミトコンドリアDNAと細胞質中DNA受容体の役割を検討した。 まずインフルエンザウイルス感染によるミトコンドリアDNAの局在変化を観察したところ、感染24時間後の細胞質中にミトコンドリアDNAが検出された。このインフルエンザウイルス感染後のミトコンドリアDNAの放出はミトコンドリア外膜上のシグナル分子であるMAVS依存的に引き起こされることを明らかにした。続いてインフルエンザウイルスのイオンチャネルタンパク質であるM2タンパク質がミトコンドリアDNAの放出を引き起こしていることを明らかにした。さらに、インフルエンザウイルス感染後のⅠ型IFN産生が細胞質中のDNA受容体であるcGASやSTING、細胞質中のRNA/DNAハイブリッドを認識するDDX41依存的に引き起こされることを明らかにした。またインフルエンザウイルスのNS1タンパク質がRNA 結合ドメインを介してこれらの受容体によるミトコンドリアDNAの認識を阻害することを示した。以上の結果はインフルエンザウイルス認識機構におけるミトコンドリアDNAと細胞質中DNA受容体の役割を明らかにしたものであり、これらの成果をまとめた論文は申請者が筆頭著者としてNature Communications誌に報告し、国内学会にて演者として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに、インフルエンザウイルスを含むRNAウイルスの感染によってミトコンドリアDNAが細胞質中に局在変化することが知られていたが、その詳細なメカニズムは不明であった。本研究ではインフルエンザウイルスのイオンチャネルタンパク質であるM2タンパク質がミトコンドリアDNAの局在変化を引き起こすことを明らかにしただけでなく、M2タンパク質と同様に脳心筋炎ウイルス(EMCV)のイオンチャネルタンパク質である2Bタンパク質も同様の機能を持つことを明らかにした。また、細胞質中のDNA認識に関与するcGASやSTING、DDX41の欠損細胞にインフルエンザウイルスを感染させると、野生型の細胞と比較してウイルス感染後のIFN-βmRNA量が低下することを明らかにした。さらに、インフルエンザウイルス感染後の細胞質中DNA受容体を介した抗ウイルス応答に対して、インフルエンザウイルスのNS1 タンパク質がRNA 結合ドメインを介してミトコンドリアDNA と相互作用することで、DNA受容体によるミトコンドリアDNAの認識を阻害することを明らかにした。 これらの結果はインフルエンザウイルスを含むRNAウイルスの感染がミトコンドリアDNAを介した細胞質中DNA受容体の活性化を引き起こすことや、インフルエンザウイルスが細胞質中ミトコンドリアDNAによる抗ウイルス応答を回避する機構を明らかにしたものであり、研究計画1年目にして以上の成果をまとめた論文を筆頭著者として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
RNAウイルス感染後の抗ウイルス免疫応答におけるミトコンドリア品質管理機構の役割を明らかにするため、ミトコンドリア品質管理機構によって除去される損傷ミトコンドリア由来の酸化ミトコンドリアDNAが、RNAウイルス感染に対する自然免疫応答やウイルス増殖に与える影響を解析する。 具体的には、RNAウイルス感染後のミトコンドリア損傷について詳細に解析するため、野生型、PINK1、Parkin、PINK1/Parkinダブル欠損マウスおよびTFAMヘテロ欠損マウスから調製したマウス繊維芽細胞(MEF)にインフルエンザウイルス、脳心筋炎ウイルスを感染させてTMRM染色によりミトコンドリア膜電位を、Mito-SOX染色により活性酸素種をそれぞれフローサイトメトリーで解析する。同時に、ドットブロット法により細胞質中に放出された酸化ミトコンドリアDNAを解析する。また培養上清中のサイトカインの定量を行い、抗ウイルス応答を解析する。 一方、RNAウイルス感染後のマイトファジーについて詳細に解析するため、野生型のMEFにインフルエンザウイルスまたは脳心筋炎ウイルスを感染させ、ミトコンドリアの膜タンパク質であるTIM44、TOM20、TIM23特異的な抗体を用いたウェスタンブロット法により、ミトコンドリアのタンパク量を解析する。インフルエンザウイルス、脳心筋炎ウイルス感染によりミトコンドリア損傷やマイトファジーが誘導されていた場合、これらのウイルス感染によるI型インターフェロンの誘導がミトコンドリア損傷とそれに続くマイトファジーを引き起こしているかどうか調べるため、ミトコンドリア膜上のシグナル分子であるMAVS欠損MEFにインフルエンザウイルスまたは脳心筋炎ウイルスを感染させ、酸化ミトコンドリアDNAと活性酸素種の蓄積、ミトコンドリア膜電位、マイトファジーの誘導を解析する予定である。
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