2020 Fiscal Year Annual Research Report
植物病原糸状菌の抗ウイルスRNAiにおけるArgonauteの機能分担機構の解明
Project/Area Number |
19J00261
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
佐藤 有希代 岡山大学, 資源植物科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 菌類ウイルス / 植物病原糸状菌 / RNAi / RNAサイレンシング / Dicer / Argonaute / プラス鎖RNAウイルス / 2本鎖RNAウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
Dicerタンパク質とArgonauteタンパク質が担うRNA干渉(RNAi,RNAサイレンシング)機構は,真核生物において広範なウイルスに対する防御機構として働くことが知られている.本機構においてDicerは,2本鎖RNAを切断して小分子RNAを産生する.一方でArgonauteは,Dicerによって産生された小分子RNAに結合して,相補的な配列を持つウイルスmRNAの発現を抑制することが知られている.Dicerがウイルスの複製型あるいはゲノム2本鎖RNAを切断するのであれば,下流のArgonauteは抗RNAウイルス防御応答に必須であろうか?本研究では,糸状菌-ウイルス間相互作用研究のモデル宿主であるクリ胴枯病菌を用いて,この生物学的問題に迫ってきた. クリ胴枯病菌は,Dicer様タンパク質遺伝子(dcl)を2つ,Argonaute様タンパク質遺伝子(agl)を4つ持つ.前年度までに,2つのdcl遺伝子のうちの1つ(dcl2)と,4つのagl遺伝子全て(agl1, agl2, agl3, agl4)を単独または多重破壊した菌株を作製した.本年度は,これら菌株において3科4種のRNAウイルス(プラス鎖または2本鎖RNAウイルス)の感染応答を解析した.その結果,Hypoviridae科のCHV1ならびにReoviridae科のMyRV1に対する抵抗性には,dcl2とagl2が寄与することが確かめられた.一方で,本菌の野生型における蓄積量が低い(本菌に非適応的な)ウイルス(Totiviridae科のRnVV1ならびにReoviridae科のMyRV2)に対する抵抗性には,dcl2のみが寄与し,4つのagl遺伝子は全て寄与しないことが確かめられた.このことから,クリ胴枯病菌において,いくつかのウイルスに対してDicer要・Argonaute不要の防御応答様式が働いていることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,Dicer要・Argonaute不要の抗ウイルス防御応答機構という,真核生物の抗ウイルスRNAi機構に新たな示唆をもたらす結果が得られたため,順調に進展したと考えている.また,菌類ウイルス間で,クリ胴枯病菌のDicerに対する感受性に差異があることを明らかにすることができた.RNAi遺伝子破壊株におけるウイルス感染応答解析結果から,本菌の野生型に非適応的なRnVV1とMyRV2は,Dicerの働きのみで抑制され,Argonauteの影響を受けなかったと考えられた.一方でCHV1とMyRV1は,Dicerの働きのみでは抑制されず,下流のArgonauteの影響を受けたと考えられた.特に,似通った性状を持つMyRV1とMyRV2[分子系統分類(Reoviridae科Mycoreovirus属)・ゲノム構成(11分節2本鎖RNA)・自然宿主(クリ胴枯病菌)に共通性が認められる]に対して,Argonauteの寄与が異なったことは興味深い.今後,ウイルス間でDicer感受性に差異が生まれる要因を考察・検証し,RNAiをめぐる宿主とウイルスの攻防についてさらに示唆を得たいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
(1) Dicer要・Argonaute不要の防御応答様式の遺伝学的証明 現在までに,遺伝子破壊株を用いた解析により同防御応答様式の存在を示唆する結果が得られたが,遺伝子相補実験は完了できていない.そこで,遺伝子相補実験により証明を完了することに優先的に取り組みたい.また,Dicer感受性が高いウイルスに対して,dcl発現が低い状態ではArgonauteの寄与が見られるかを検討するため,薬剤誘導性プロモーターでdclを発現する遺伝子相補株においてウイルス感染応答を解析したい. (2) ウイルスごとにArgonauteの要・不要(Dicer感受性)が異なる分子メカニズムの検証 一つ目の仮説として,ウイルスがクリ胴枯病菌のDicerを抑制する因子を持つか否かにより,Dicer感受性の差異が決定されている可能性を考えている.本仮説は,2本鎖RNAレポーター遺伝子を発現する菌株において,ウイルスがレポーター遺伝子のRNAiを抑制するかどうか解析することにより検証したい.二つ目の仮説として,Dicerの基質RNAへのアクセス性がウイルスごとに異なる可能性を考えている.本仮説は,ウイルス2本鎖RNAとDicerの共局在解析等により検討したい.
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