2019 Fiscal Year Annual Research Report
現代中東の宗教対立と聖地紛争:シリア・イラク・パレスチナにおける多元的共存の探究
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19J00599
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山本 健介 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | エルサレム / パレスチナ / 聖地 / 紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず2019年度は、2017年度に提出した博士論文を『聖地の紛争とエルサレム問題の諸相:イスラエルの占領・併合政策とパレスチナ人』として刊行した。出版にあたっては、本研究課題で新たに追加するシリアとイラクの事例を念頭に置いて、エルサレムの事例にとどまらない一般的な視点からの記述を心がけた。とりわけ聖地とその周囲の都市空間における社会生活の描写に関して、中東・イスラーム世界全域で見られる都市生成のあり方に着目した。この視点は、今後の研究を進める上での基礎として援用することが可能である。 また、タイで開かれた国際研究集会(International Conference on Resources and Human Mobility)において、今後の研究における新たな可能性を探るため、聖地の観光資源化という視点を用いた研究報告を行った。近年、中東地域ではイスラエルとアラブ諸国の外交関係が動態的に変化しており、エルサレムの聖地をめぐる紛争において、ムスリム側のアクターのなかに多様な立場と競合関係が生まれつつある。他方、論争のなかでは、紛争で疲弊した社会の再建における宗教観光の重要性において意見の一致があることが分かった。後者の点で、エルサレムの聖地に関わるこの論争は、他の紛争事例に先行するものとして、今後も継続して注視するべきトピックであると考えられる。 また今年度は、ヨルダンで文献資料の収集を軸とした臨地調査を行った。大学図書館などでエルサレムを中心に、歴史的シリア地方の聖地における社会史を取り上げた文献を収集した。調査時には、ヨルダンの首都アンマンで大規模なブックフェアが催されており、そこでも聖地問題に関する文献を多数収集した。2019年度の後半以降、その読解を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、2017年度提出の博士論文を書籍として刊行した。同書は、エルサレムの聖地問題を専門的に扱った日本初の研究書であり、研究員採択中の研究課題においてもその基礎として大きな価値を持っている。また、2019年度には、国際会議において、聖地の紛争を観光資源化における争いという新たな視点から捉える報告を行い、参加者から有益なコメントを得た。これらに加えて、今後の研究の礎を築くための文献資料の収集や解析も予定通りに進んでいる。上記の点から、本年度の研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず研究成果の発信を継続して進めていく。現時点では、「宗教と社会」学会での報告ならびに同学会誌への投稿と、Arab Studies Quarterlyへの投稿を計画している。それとともに昨年の現地調査で得られた文献資料の解析を進める。特に、トランプ政権以降のエルサレム問題に関して、現地語の文献やメディアから得られた情報をまとめ、紛争の展開を細かく整理していく。また、宗教間関係の今日的展開に関するエルサレムでの調査計画(2020年度後期以降)を立て、その準備を進める。
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