2020 Fiscal Year Annual Research Report
多機能性イオン液体を利用した化学変換法による熱硬化性クラフトリグニン樹脂の開発
Project/Area Number |
19J00642
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 栞 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | リグニン / プラスチック / エステル / イオン液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、木質バイオマスの主成分であり、貴重な芳香族資源であるリグニンの有効利用が期待される。しかし、複雑な化学構造や、難溶解性で熱溶融しないことから、従来、その利活用は限定的であった。そこで本研究では、イオン液体の利用に注目した。イオン液体の一種である[Emim][OAc]は、木質バイオマスを容易に溶解するだけでなく、水酸基とビニルエステルとのエステル交換反応の触媒としても機能する。さらに、[Emim][OAc]を用いる場合、リグニンの芳香族水酸基(Ar-OH)はそのまま残し、脂肪族水酸基(R-OH)はアセチル化する、といった選択的な化学修飾が可能である。本研究では、炭素数の異なるビニルエステルを用いて、[Emim][OAc]を溶媒かつ触媒としたリグニンの均一系エステル交換反応を行い、得られた誘導体の熱特性を評価した。 生成したリグニン誘導体は全て、約90%のR-OHがエステル基で置換され、約80%のAr-OHが残存したことから、R-OHの選択的な化学修飾に成功した。導入したエステル基の炭素数の増加に伴い溶解性が改善し、ヘキサノイル基を導入したクラフトリグニン誘導体は、DMSOやDMFに加え、THF、アセトン、クロロホルムに可溶であった。 各種誘導体の熱分解温度(Td)は241-268℃であり、クラフトリグニン(255℃)と同等の熱安定性を示した。また、エステル基の炭素数の増加に伴い、182℃から132℃までガラス転移温度(Tg)が減少した。各Tgの値を参考に、熱圧フィルムの作製を試みたところ、短鎖エステル基を導入した誘導体は部分的に熱溶融し、フィルム状に成形されたが硬く脆いフィルムであった。一方、炭素数4以上の長鎖エステル基を導入した誘導体は十分に熱溶融し、適度なしなやかさを有する自立フィルムとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
再生産可能資源である木質バイオマス由来成分(リグニン、セルロース、ヘミセルロース)を用いたバイオマスプラスチックは、持続可能な社会を構築するために必要不可欠な素材である。本研究では、芳香族化合物であるリグニンを対象として、石油合成プラスチックにない性能を有する高性能なプラスチック開発を目的としている。本年度はクラフトリグニンを対象とし、アルキル鎖長の異なる5種類のビニルエステルを用いて、アルコール性水酸基に対して選択的にエステル化を行ったリグニン誘導体の合成、熱圧フィルムの成形、および諸物性評価を行った。イオン液体を反応場(溶媒かつ触媒)として利用することにより、種々の選択的エステル化に成功するとともに、ガラス転移点が100℃以上の耐熱性に優れた材料の開発に成功した。また、エステルの炭素数が4以上のものについては、自立したフィルムを作製できることも分かった。今後は、高分子量化、混合エステル化、射出成形体の作製などを行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発しているリグニンエステル誘導体単独では、実材料としての利用は困難な場合も想定される。そこで、イオン液体を用いてセルロースを始めとする多糖類の湿式紡糸の作製も同時に進めたところ、非常にきれいで自立した繊維の作製に成功した。この内容については、原著論文として掲載されており、非常に高く評価されている。今後は、イオン液体中でのエステル化と同時に紡糸も行える誘導体化・繊維化の一貫プロセスの開発に着手する。
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