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2020 Fiscal Year Annual Research Report

聖母晩年伝の機能研究

Research Project

Project/Area Number 19J00677
Research InstitutionWaseda University

Principal Investigator

桑原 夏子  早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(SPD) (90873357)

Project Period (FY) 2019-04-25 – 2022-03-31
Keywordsフランチェスコ会 / 図像 / 教皇派と皇帝派 / 死生観 / アッシジのサン・フランチェスコ聖堂 / ローマのサンタ・マリア・マッジョーレ聖堂 / チマブーエ / ヤコポ・トッリーティ
Outline of Annual Research Achievements

聖母晩年伝の機能研究では、①フランチェスコ会の注文による聖母晩年伝の機能を、典拠となったテキストの調査を通して明らかにし、②葬礼美術における聖母晩年伝の機能を墓碑装飾形式の変化と比較することによって検証し、③聖母晩年伝が他の物語伝壁画と組み合わさった時の機能を聖堂装飾全体の様子を再現することによって明らかにし、④政治的空間における聖母晩年伝の機能を注文史料の読解を通して詳らかにすることを研究方策としてきた。令和2年度は①について、特に重要な作例であるローマのサンタ・マリア・マッジョーレ聖堂内陣モザイクとアッシジのサン・フランチェスコ聖堂上堂壁画の例を取り上げ、典拠となったテキストを特定すると同時に、フランチェスコ会士たちが聖堂装飾を通して「聖母マリアの肉身被昇天」の教義をプロモートするにあたって、5、6世紀に編纂された聖母の晩年についての偽書を積極的に研究し、複数の偽書の記述を参考に新しい図像を考案していたことを発見した。フランチェスコ会内部で重視されていた擬ヒエロニムスの書物は、聖母の晩年についての偽書を信じることを非難している。そのためローマ作例とアッシジ作例において複数の偽書が参照されていたという発見は、13世紀末のフランチェスコ会の神学研究において偽書に対する関心が深められ、それがむしろ活用されていたという新事実を導くものとなると思われる。
また、聖母晩年伝が持つ美術史的な意義を体系的に示すことにも取り組んだ。まずは聖母晩年伝を構成する各主題の図像について、それぞれの図像形成の様相を西欧全域を対象に跡付け、それが13世紀以降のイタリアどのように伝わったのかを調査すると同時に、それが聖堂空間のどこに配置されたのかを調査した。その結果、イタリアでは民衆による宗教生活の実践と、教皇派と皇帝派の派閥争いを力学として聖母晩年伝が受容され、機能したことを突き止めることができた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

新型コロナウイルス感染拡大の事由により、イタリア国内での移動に制限が生じたため、本来予定していたイタリア南部の洞窟聖堂群の実見調査は実施することができなかった。そのためビザンツ文化圏の作例との比較研究には遅れが生じている。しかしその点を除けば研究の進捗状況はおおむね順調である。とりわけ二回の長期現地調査によって、オランダ大学機関美術史研究所で綿密なデスクワークを行うことができたため、令和2年度における最大の研究成果として、ローマ作例とアッシジ作例の典拠となるテキストが偽書であったことを特定することができた。これら二点の作例はイタリアにおけるフランチェスコ会に由来する最初の聖母晩年伝作例であり、なおかつ初のフランチェスコ会出身の教皇、ニコラウス4世が注文に関わっている点も重要である。フランチェスコ会が重視していた擬ヒエロニムスのテキストは、聖母の晩年について扱った偽書を参照することに否定的な立場をとっていたが、それゆえローマ作例とアッシジ作例の図像の成立の背景に、フランチェスコ会が本来避けていたはずの偽書の研究がなされていたことを指摘できたことは大きな意義を持つ。
初年度の研究において「聖母晩年伝が持つ美術史上の意義を体系的に示す」という課題も見えたため、今年度は当初予定していた研究計画に加えて、聖母晩年伝図像の成り立ちとイタリアにおけるその流入の様相を明らかにすることにも取り組むことができた。調査対象をイタリアだけではなく、ビザンツ文化圏を含む西欧全域に拡大したことで、膨大なデスクワークが必要となり、その分まとまった研究成果を発表する時間的余裕を失ってしまったことも事実ではあるが、この調査を通して研究テーマに一層の厚みが出たと考える。
実施した研究の成果は名古屋大学出版会から単著として出版予定で、現在執筆を進めている最中である。

Strategy for Future Research Activity

今年度は研究方策④政治的空間における聖母晩年伝の機能を注文史料の読解を通して詳らかにすることを中心に研究を実施する。また、令和2年度に実施できなかったビザンツ文化圏の事例との比較研究も行う。
政治的空間における聖母晩年伝の機能を探るため、イタリア中部シエナの政庁舎内礼拝堂の作例と、フォリーニョの宮殿内礼拝堂の作例を取り上げ、それぞれの注文状況を史料をもとに調査し、そして建物全体の装飾プログラムと比較し、その中で聖母晩年伝というテーマがどのような役割を持っていたのかを明らかにする。またこれらの作例を描いたタッデオ・ディ・バルトロとオッタヴィアーノ・ネッリは、それぞれ上記の作例の制作と前後してフランチェスコ会の聖堂のために、ほぼ同じ聖母晩年伝を繰り返し描いている。この事実に着目し、同じ画家によって描かれた同じ聖母晩年伝が、政治的空間に描かれた場合と聖堂に描かれた場合とで、どのような意味の違いを持っていたのかについて調査する。
令和2年度に実施できなかったビザンツ文化圏の事例との比較検証のためにはイタリア南部の作例群の重点的な調査が必要である。イタリアはコロナウイルス感染拡大の規制が緩められているところであり、現地での長期滞在を通した実見調査を実施する。万一それが不可能となった場合は、同地の作例群に詳しいサレルノ大学マヌエーラ・デ・ジョルジ教授の協力を仰ぎ、作例調査に必要な諸データを共有して研究を行う。
また「聖母晩年伝が持つ美術史上の意義を明らかにする」という課題を推進させるため、今年度はさらに14、15世紀のイタリアにおける聖母晩年伝の受容と機能についても調査する。そこでシエナの画家ドゥッチョによるシエナ大聖堂のための祭壇画《マエスタ》と、フィレンツェの画家ジョットがイタリア北部、中部、南部の各地に残した聖母晩年伝作例を中心に調査を進める。

  • Research Products

    (2 results)

All 2020 Other

All Int'l Joint Research (1 results) Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results)

  • [Int'l Joint Research] ラクイラ大学(イタリア)

    • Country Name
      ITALY
    • Counterpart Institution
      ラクイラ大学
  • [Journal Article] 「「聖帯を持つ聖母の魂」図像についての基礎的研究」2020

    • Author(s)
      桑原夏子
    • Journal Title

      『芸術学』

      Volume: 23 Pages: 41ー60頁

    • Peer Reviewed

URL: 

Published: 2021-12-27  

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