2020 Fiscal Year Annual Research Report
物質輸送とダイナミクスから探る生体分子-水相互作用と生体高品位保存への知見の展開
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19J00694
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松浦 弘明 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD) (50847994)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | バイオ熱工学 / 誘電分光 / 水分子ダイナミクス / 生体分子 / 高品位保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の実績を以下にまとめる. (1) 誘電分光システムの測定周波数領域の拡大: これまでベクトルネットワークアナライザ(10 MHz~43.5 GHz)を用いて誘電スペクトル取得を行ってきたが, 特性インピーダンスから大きく離れたインピーダンス測定が原理上困難であることから, 数100 MHz以下の周波数領域における妥当なスペクトル取得が困難な場合があった. 周波数領域を拡大するため, GHz帯までの高確度なインピーダンス測定が可能なRF-IV法によるインピーダンスアナライザ(1 MHz~3 GHz)を導入し, 研究室のインピーダンスアナライザ(40 Hz~110 MHz)も組み合わせた測定システムを構築し, 40 Hzから43.5 GHzの誘電スペクトルを高い信頼性で得られるようにした. (2) 誘電スペクトルの解析方法に関する検討: 誘電分光の実験では誘電率の実部と虚部が得られるが, 誘電率虚部には直流導電率成分が含まれるため解析が困難となる. このため, 誘電率実部からクラマース・クローニッヒの関係を用いて誘電率虚部に変換することで, 直流導電率成分が含まれない誘電率虚部を算出するための手法を確立した. また, 複数の緩和からなるスペクトルに対してDebye型緩和の重ね合わせモデルによるフィッティングを行う際に, 情報量基準を用いることで適切な緩和の数(ピーク数)を決定する手法を確立した. (3) 深共晶溶媒の誘電スペクトル取得に関する検討: タンパク質の安定化作用などが注目されはじめている深共晶溶媒やその水溶液に含まれる水分子のダイナミクスを調べるため, 塩化コリンとグルコース, 塩化コリンとグリセロールからなる深共晶溶媒とその水溶液について, 25 °Cにおける誘電スペクトル取得を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は研究室で実施可能な誘電分光に関する取り組みにとくに注力することになったが, 測定システムと解析方法の検討によりピコ秒からミリ秒に渡る幅広い時間スケールのダイナミクスを観測することが可能となり, この手法により深共晶溶媒について興味深い結果も得られはじめているため.
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Strategy for Future Research Activity |
熱ストレス保護作用や乾燥保護作用が期待される深共晶溶媒を含む水溶液について引続き誘電スペクトルの取得を行い, この結果と生体分子保存による残存活性とを比較することで, 分子ダイナミクスと保護効果に関して知見を深める.
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