2020 Fiscal Year Annual Research Report
A study of distribution of export goods form regional areas to Yokohama, international port city, during the early modern and modern transitional period
Project/Area Number |
19J00714
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
中尾 俊介 横浜国立大学, 教育学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 生糸売込商 / 仕切状 / 東京・横浜間舟運 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)生糸荷主の資料調査 昨年度につづき、生糸仕切状の収集をおこなった。2020年度の調査により、生糸売込商が集める口銭の変遷がおおむね明らかになった。口銭は売込商が委託貿易をおこなう際の収益であったが、荷主確保のためかその割合を低率にする競争が常に存在した。売込商の仲間規則はそこに一定の制限を付したものと考えられる。仕切状の記載からは、荷主が負担する雑費の変遷が明らかとなり、そこから、売込商、運送業者、外国商社との関係を推定することができる。また、口銭の変遷からは、仲間規則(年欠)の年代判定の手がかりも得られる。本作業によって、売込商の仲間組織の確立、貿易の形態についての具体的変遷が明らかとなった。 (2)東京・横浜間の舟運に関する調査 明治10~20年代の東京・横浜間の舟運に関わる資料の調査・読解をおこなった。明治期の東京は江戸の海運秩序を引き継ぎつつ、船舶の種類や運用方法に変化があったことを明らかにした。大規模な蒸気船が増加し本船が横浜港に碇泊するようになると、両都市間の運送が増加し、艀船の巨大化(茶船→五大力船)、達磨船や小型蒸気船の導入が進んだ。また、明治20年代には瀬取宿、穀物商人、石炭商人らが東京艀会社を創立し、資本金を元手に社有船を運用する営業が開始された。これらは、築港事業の実施とは異なる形で物量の増加に対応する動きと評価でき、港湾・海運の近代化過程を考えるうえで注目される。 (3)横浜移住商人に関するデータ整理 愛知県豊橋市美術博物館蔵、大河内家文書の「探鑿録」に含まれる横浜関係者のリストの整理をおこなった。主要には、横浜の都市形成における江戸・神奈川宿の住人の重要性、引取貿易に関わる出願が極めて少ないこと(開港当初は売込商の兼帯として引取貿易が展開したことを示す可能性)が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の内容】(1)~(3)に沿って記述する。 (1)は、2019年度に比して安政6年~慶応3年までの期間の事例を格段に増やすことができたが、仕切状の収集・読解に想定よりも時間がかかり、写真撮影をして未翻刻の資料や、所在を確認しただけで未見の資料も残った。これらについては、2021年度に継続して調査、読解をおこなう。 (2)は順調に進展し、明治期における両都市間舟運の変化を跡付けることはできた。ただし、東京港・横浜港における物資運送をめぐる社会構造の把握のためには、以下の課題が残されていると考える。①廻船問屋を中心とした江戸湊の秩序(瀬取宿、艀舟に乗る水主を含む)が明治以降どのように変化したかを検討すること、②明治10年代には東京・横浜において群を抜いた経営規模となる三菱会社と、既存の運送業者の関係を明らかにすること、③2020年度の調査で把握された明治期の船舶所有者の性格を明らかにすること。 (3)は順調に進展し、開港当初の横浜移住希望者等について具体的に明らかにすることができた。残された課題としては、開港当初において売込商が引取貿易をおこなっていたか否かの検証が重要であると考える。この点は、2019年度に進めた横浜移住商人の商法議定がヒントになるが、なお資料を探す必要がある。2021年度は生糸・茶の荷主、運送業者に関わる資料を調査する予定であるが、あわせて当時の引取貿易に関する情報も探していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
(A)まず、2020年度に引き続き生糸の仕切状の調査を進める。また、仕切状の調査を進めるなかで、横浜の売込商から荷主に宛てた書簡も多く残されていることを確認した。年欠の資料が多いが、当時の横浜での貿易に関わる貴重な情報が得られるので、あわせて調査・読解を進める。 (B)明治期の東京港・横浜港の物資運送をめぐる社会構造把握に向け、三菱会社関係の資料調査・読解を進める。【現在までの進捗状況】で挙げた3つの課題のうち、②を優先して検討するということになるが、この作業を進める中で①や③についての知見も得られると考えている。 (C)北関東からの茶の流通についての資料調査をおこなう。具体的には下総境河岸の資料調査をおこなう。
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