2020 Fiscal Year Annual Research Report
Extended theories of gravity from fundamental physics and their observational tests
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19J00895
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
青木 勝輝 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 重力理論 / 宇宙論 |
Outline of Annual Research Achievements |
正値性制限とは、既知の量子論で仮定される4つの基本原理(ユニタリー性、ローレンツ不変性、因果性、局所性)から導かれる低エネルギー有効理論に対する非自明な制限のことである(Adams et al, 2006)。しかし、つい最近まで正値性制限は重力を含む理論に適応できていなかった。重力を含める困難さの本質は重力子交換によって式に発散が現れることにある。私は、重力子交換によって生じる発散は量子重力理論効果で現れる高スピン粒子交換の寄与と厳密に相殺することを指摘し、重力を含む理論に対する正値性制限を導いた。さらに得られた制限を現象論模型へと適応し、最も代表的なダークエネルギー模型であるスカラーテンソル理論に対する正値性制限を求めた。本成果は宇宙観測やこれまでの実験・観測結果からボトムアップ的に量子重力理論への示唆を探るための第一歩である。 一方、近年の宇宙論観測はこれまで宇宙論の標準模型とされていたΛCDM模型と観測結果との不一致を示唆している。この結果を正しく理解するためにはΛCDM模型に基づいた解析のみでは不十分であり、ΛCDM模型を超えた宇宙模型も用いて観測結果との比較・検討が必要である。私は最小修正重力理論に基づいた宇宙模型を用いることで、この模型はΛCDM模型よりも観測結果をよく再現することを示した。特にΛCDM模型からのズレは宇宙の加速膨張期ではなく、比較的初期の段階で存在する場合に観測を説明可能であることを示した。 上記らの成果の他にもガウス・ボネ重力理論の4次元極限についての理論的定式化及び宇宙論解析、ゴーストのいない高次曲率理論の提案も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は宇宙観測から基礎理論への示唆を得ることであり、そのためには基礎理論が低エネルギー物理に与える予言は何か?、そして観測結果を説明する理論・模型は何であるか?を明らかにする必要がある。上記で記した研究実績は当初の研究計画では予期していなかったものであるが、これらの研究成果は本課題の目的に沿ったものであり、目的達成に向けて研究が順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は重力理論に対する正値性制限をより発展させ、宇宙論等へ適応可能な形まで正値性制限を発展させること、また正値性制限を用いて具体的な理論模型から基礎理論への示唆を実際に得ることが目標である。前者を達成するために、宇宙論のようなローレンツ対称性が自発的に破れている状況下にも正値性制限を拡張させ、宇宙論の観測量に対する正値性制限を定式化する。これにより、宇宙観測から局所性といった基礎理論に対する仮定を検証することが可能となる。後者に関しては、素粒子標準模型・一般相対論に対して正値性制限を適応し、既に知られている物理法則からボトムアップ的に量子重力理論への示唆を得る。これは素粒子標準模型自体は繰り込み可能であるが一般相対論が繰り込み可能でないという点が本質的である。事実、繰り込み可能理論では正値性制限は自明に満たされるが、重力相互作用を取り入れると正値性制限は非自明となることが知られている。これは繰り込み可能理論と一般相対論の調和は単純ではないことを意味し、既知の物理法則が正値性制限の要請を満たすにはどのような新物理が必要となるか?という点を調べることによってボトムアップ的に高エネルギー基礎物理に対する示唆を得ることができると期待される。
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