2019 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の先祖祭祀と文化的アイデンティティ―東アジアとの差異化の観点から―
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19J01140
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
問芝 志保 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 近代転換期の葬送墓制 / 神葬祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、まず第一の「明治初期の神葬祭政策下で形成された墓地観・墓観」を明らかにするとの目的のもとで、近世末期~明治20年頃までの間における神葬祭墓地をめぐる思想や言説について、主に国内の図書館や資料館を活用して資料収集を行い、その内容の分析を行った。また、現存する神葬祭墓地での実地調査も行った。近世末期の資料からは、『家礼』(朱子)で示された墓制のなかで日本の風土や習俗に適合しない部分をどのように処理するかについて、各派がいかに異なる対応をとっているかを抽出し、この点については次年度以降さらに検討していくこととした。また、明治期以降の資料からは、神葬祭式の墓制については近世期からほとんど変化は見られず、大筋で『家礼』の踏襲にとどまっていることがわかった。以上の検討を経て、思想が先行するかたちでの神葬祭墓地の構想は、土地や衛生など現実問題という壁の前に、ほとんど実現不可能なものであったとの仮説的な結論を得た。以上の成果については次年度初頭までに補足的調査・分析を行い、得られた成果を論文として投稿し、また国内学会・研究会での口頭発表で公表する予定である。 また、第二の「日本国内におけるアジア葬送文化についての認識」というテーマに関しても、主に国内の図書館や資料館における資料収集と検討に着手した。ただし、2~3月に台湾への調査出張が行なえなかったため、この調査については翌年に持ち越すこととする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画のうち、明治初期の神葬祭政策下で形成された墓地観・墓観を明らかにするという目的のもと、近世末期~明治前半期の神葬祭式書を幅広く蒐集し、具体的な調査に当たるという点に関しては、順調に進展し、研究全体のテーマを着実に進めていると判断できる。また、実地調査も実施することができ、神葬祭墓地の歴史的調査・フィールド調査という未開拓の分野での実証的な研究に踏み出すことができた。 しかし残念ながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、年度末に予定していた台湾での調査はかなわなかったため、入念な準備のもとで来年度以降実施したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に則って研究を推進し、今年度までの研究内容を学術発表によって一層深める。また、「日本国内におけるアジア葬送文化についての認識」については引き続き調査・分析については上掲のとおり、初年度に十分な予備調査を行うことはできなかった。今年度の海外出張の見通しも不明ではあるが、早期に国内で可能な限り、台湾総督府関係資料を中心に日本統治期の墓地に関する制度史、法制史的調査を行うことを予定している。
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