2020 Fiscal Year Annual Research Report
行動・遺伝学的アプローチによる同所的アオリイカ属の生殖隔離の実態解明
Project/Area Number |
19J01162
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
笘野 哲史 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 生殖隔離 / アオリイカ / 繁殖生態 / 人工授精 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目の研究目的: 飼育と人工授精による異種交配試験および隔離障壁の種内変異を調べる 総評: 新型コロナウイルス感染症の流行拡大にともない,研究内容に変更が生じた。特にアオリイカの産卵シーズンである3-6月に緊急事態宣言の発令や感染者の増大が訪れたため,野外調査や水族館での長期飼育や観察試験等は行っていない。よって,アオリイカから得られたデータは限られたものであった。その一方,2021年初頭から進めているヤリイカを用いた人工授精法の確立では,十分なデータが蓄積されつつある。さらに沖縄科学技術大学院大学の協力の下,アオリイカ異種交配試験を行う準備が進んでおり,来年度に向けた準備も着々と進んでいる。 2年目の研究内容と研究実施状況: 新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い,長期にわたり水族館など他機関に滞在する研究は実施していない。生殖段階が生じる段階を明らかにするため,そもそも異種間の配偶子が受精するかを知る必要がある。ところが,アオリイカ属において人工授精技術は確立されていないため,まずは既往研究で実績のあるヤリイカを用いて人工授精と受精卵の培養を行った。結果として,9割以上の成熟卵をシャーレ上で受精させることに成功した。さらに胚発生における課題の一つであった,正常な卵膜の膨張にも成功した。これらの技術をアオリイカに応用すれば,アオリイカの人工授精と異種交配試験の確立へ期待できる。新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い,海外や感染蔓延リスクの高いフィールドでの研究調査は実施していない(研究1-B野外繁殖集団の分析も同様)。来年度以降も実施できる可能性は低いと言える。そこで,アオリイカ属3種が同所的に生息する海域として,鹿児島県奄美大島を新たに野外調査地として着目した。奄美大島には東京大学が実験施設を有しているため,検体採集や解剖を行うに最適と思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査や水族館における飼育行動観察など、研究所外での研究活動を主としている本課題は、コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言や活動制限が生じ、特にアオリイカの繁殖期での研究活動が強く制限されたにより、予定していた研究活動がほとんど行えないという非常に困難な状況であった。そこで、内容・方法や調査地を一部変更し、研究計画の見直しを行った。具体的には、自身が直接調査地にいけないことから、地元漁業者等とのネットワーク形成に務め、漁獲物の解剖・分析から得られる繁殖特性のデータ収集を行った。2021年春から夏のアオリイカ繁殖期における実験を確実に進めるため、2020年度冬季は同属のヤリイカを用い、人工授精や受精卵の発生を進める条件を検討した。これにより、人工授精方法においては十分に高い受精率が得られ、また培地の工夫などによりin vitroで正常な胚発生を進めることに成功した。この成果を用い、2021年度アオリイカでの実験を進める予定である。以上より、コロナウィルス感染拡大による非常に厳しい活動制限を受けた状況であったにも関わらず、現状できうる計画を再構築し、その中で成果を上げてきたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究1) アカイカとシロイカ間で異なる繁殖システムを調べる 飼育水槽内で異種交配試験を行う。異種間での個体間相互作用をビデオカメラによって記録し,研究1)Aの同種内と比較する。交接が確認された場合は,卵のうの培養を行う。成熟個体から精莢と卵を採取し,人工授精を行い,発生を確認する。これらの結果から,生殖隔離が生じる段階を明らかにする。来年度は,沖縄科学技術大学院大学の協力の下,飼育されているアオリイカをもちいた人工授精試験を行う予定である。 研究3) 熱帯域のアオリイカ属を採集し,隔離障壁と推定された繁殖形質を調べ,種内変異を評価する) アオリイカ属が同所的に生息する熱帯域にて,野外から成熟個体を採集する。研究1)Bと同様に生物学的データを収集する。実験設備は現地の大学や研究機関を使用する。アオリイカ属3種が同所的に生息する海域として,鹿児島県奄美大島を新たに野外調査地として着目した。奄美大島には東京大学が実験施設を有しているため,検体採集や解剖を行うに最適と思われる。報告者は現地に訪問し,現地の漁業者,遊漁者,鮮魚店,ダイビング業者らと協力関係を進めている。また,アオリイカ属の中でもクアイカは漁業対象となっていないため,多くの海域で検体収集が非常に難しいという課題があった。ところが奄美大島の関係者はクアイカの存在を認知しているため,来年度の検体採集も期待できる。
|
Research Products
(4 results)