2020 Fiscal Year Annual Research Report
Evolution of thermoTRP-mediated thermosensation in Anolis lizard
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19J01186
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
赤司 寛志 東京理科大学, 生物工学科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 温度感受性TRP / 温度適応 / 温度感覚 / 忌避体温 / 忌避行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の温度感覚は、自身の体温を適切な温度に保つ上での重要な生理機能の一つであり、感覚神経に発現する温度感受性のTRPイオンチャネル(以後TRP)が温度センサーの役割を担うとされている。これまでの研究から、生物の温度特性と相関するように、TRPの一つであるTRPA1の活性化温度(すなわち温度センサーが反応する温度)が変化していることが示された。しかし、これまでの研究は比較対象種が少ないことから、TRPの機能と動物の温度応答行動や生息温度環境との関係を明らかにできていなかった。本年度は、異なる温度環境に生息するアノールトカゲにおいて、TRPの活性化温度を測定し、活性化温度の決定に重要なアミノ酸領域を推定する予定であったが、コロナの影響により電気生理学的実験を実施することができなかった。そこで本年度は、TRPA1の活性化温度やその種の温度応答行動に関わるパラメータを報告した先行研究について大規模な文献検索を行ない、メタ解析を実施することで活性化温度の進化パターンや生態学的に重要な温度応答行動との関連を解析した。その結果、TRPA1の活性化温度と動物の忌避体温が統計的に有意に相関することを見出した。ショウジョウバエやヘビなど幅広い生物種を対象にしているため、phylogenetic generalized least squaresにより系統的な効果を排除した上での相関解析を実施したところ、統計的に有意な相関は支持されていた。動物の活動を脅かす侵害温度は、これまで行動実験によって推定されてきたが、本研究により、TRPA1の活性化温度を解析することで動物の侵害温度を推定できる可能性を示唆することができた。今後、TRPの活性化温度と温度応答行動や生息温度環境との関連を明らかにすることで、今度の温暖化する環境への応答の理解・予測へ繋げたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、TRPA1の活性化温度について、これまでに報告された研究例をGoogleScholar及びPubMedを利用して網羅的に文献検索を行い、活性化温度の進化傾向及び生態学的に重要な行動パラメータとの関連を調べるためメタ解析を実施した。文献検索では「外温性動物」や「TRPA1活性化温度」などといったキーワードを固定することで、再現性のとれる文献検索を実施した。その結果、外温性動物においてTRPA1の活性化温度はこれまでに18種について報告されており、Pagel’s lambdaをもとにphylogenetic signalを解析したところ、TRPA1活性化温度は種間で異なるものの、その分化パターンは系統の影響を受けていることが明らかとなった。TRPA1活性化温度が報告されている種について、臨界最高体温や忌避体温、そして野外における平均体温を同様に文献検索からデータを取得した。TRPA1の活性化温度の種間差は系統の影響を強くうけることが示唆されているため、これらのパラメータについて系統的な影響を加味した上での相関関係を解析する必要があり、phylogenetic generalized least squaresを実施した。その結果、TRPA1活性化温度は系統の影響を排除した後も忌避体温と統計的に有意の正の相関を示しており、臨界最高体温や野外における平均体温とは相関しなかった。これまで、TRPA1は動物の侵害温度を感知するセンサーであると認識されてきたが、幅広い動物種を交えたメタ解析によっても忌避体温と相関することが統計的に支持された。本年度は、当初予定していたアノールトカゲを用いた解析は期待通りの成果は得られなかったが、予定とは異なるアプローチにより新たな知見を得られたことは、期待以上の結果が得られたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究二年目は、アノールトカゲのTRPについて電気生理学的実験を実施できなかった。メタ解析によって新たな知見が得られたが、今後は当初の予定通り、TRPA1及びTRPV1の電気生理学的解析を実施する。TRPA1においては、低温環境に生息するA.allogus及び高温環境に生息するA. sagreiの二種間において、先行研究で報告されている活性化温度に重要なアミノ酸領域を入れ替えたキメラ配列を作成する。野生型の配列及びキメラ配列をHEK293細胞で発現させるための発現ベクターに組み込んだうえで、電気生理学的手法(パッチクランプ法)によってキメラ配列の活性化温度が野生型と比べて変化することを検証する。また、TRPV1においては初年度に準備したプラスミドを用いて同様の解析に取り組む。これまでの調査で採取したアノールトカゲのゲノムDNAを抽出し、活性化温度決定に重要だと推定されているアミノ酸領域の塩基配列を決定し、種間比較を実施する。配列比較においては、電気生理学的解析が予定通り進んでおらず、コロナの状況によっては今後も電気生理学的解析が実施できないことも考えられるため、TRPの電気生理学的解析の結果を待たずに並行して実施する。
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Research Products
(1 results)