2019 Fiscal Year Annual Research Report
Theatre and Music in Politics as 'Caring for the Soul': with focus on Plato and Rousseau
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19J01194
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
隠岐ー須賀 麻衣 名古屋大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | プラトン / ルソー / 政治思想 / 演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績として、(1)プラトンにおける喜劇とユーモアについて、国際学会での口頭発表、(2)プラトンにおけるイデアとイメージについて、国際学会での口頭発表、(3)「哲学者と非哲学者のピュシス」という論考の論文集への寄稿がある。また、新型コロナウイルス感染拡大のために延期となってしまったが、(4)「古代ギリシアにおける啓蒙の源泉」というタイトルで国内研究会の口頭報告を行う予定であった。以下、それぞれの概略を述べる。 (1)では、プラトンによる喜劇の理解を出発点としながら、「笑い」というこれまでのプラトン研究において取り上げられることが少なかった概念をテーマとして、それが哲学的にどのような意義を持ってプラトン哲学のなかで描かれているかを検討した。学会では世界中の著名なプラトン研究者から有益なコメントをもらい、現在、内容をブラッシュアップしている。(2)では、プラトンの作品のなかでも存在論をテーマとする『パルメニデス』を主たる研究対象として、イデアとイメージ、そして模倣(コピー)という三者の関係を、存在論的観点から考察した。さらに、その存在論がプラトン哲学においては政治にかんする議論に深くかかわっていることを示した。発表原稿は加筆修正して国際ジャーナルに投稿した。(3)では、プラトンの政治哲学において一般的に理解されている、哲学者と非哲学者の間の境界が、実際は生まれついての本性(ピュシス)にはなく、習慣のうちに存することを示した。(4)では、プラトンにおいてたびたび登場する光と闇のメタファーが、17世紀後半以降に利用される啓蒙のメタファーと重なることを示しながら、古代におけるソフィスト思潮が「ギリシア啓蒙」と呼ばれる一方で、プラトンはそれに対して反啓蒙的態度をとっているように見えることを論じる予定であった。本論考は2020年度内に口頭発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画では、2019年度には次の3つを達成することを目標として掲げていた。(A)喜劇がもたらす情念と笑いにかんする考察を、古代ギリシアを研究対象として行う(学会発表と論文投稿)。(B)劇場と観客の相互作用を、古代ギリシアを研究対象として行う(学会発表と論文投稿)。(C)フランス語圏の大学等でルソーとモリエール、さらに18世紀フランスの演劇と音楽の研究のために必要な資料を収集し、その資料をもとに研究会で発表を行う。これらはいずれも80%以上達成しているため、研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と言える。 (A)については、上記の「研究実績の概要」(1)に相当する形で研究を進めた。「笑いは人々の習俗を矯正するか?プラトンの『法律』、『フィレボス』、『テアイテトス』における喜劇とユーモア」と題する学会発表にて多くのコメントを得、さらに詳細な検討が必要であると考えられたため、発表原稿の修正という形ではなく、さらなる大幅な加筆をすることにした。したがって、論文投稿は現段階ではできていないが、基本骨子はできている。(B)は「研究実績の概要」(2)に相当する形で、「プラトン『パルメニデス』、『ソフィスト』、『ポリテイア』におけるイデアとイメージ」というタイトルで学会発表を行い、発表原稿に加筆修正を施して、Selected Papers of the XII Symposium Platonicumに投稿した(査読結果はまだ出ていない)。当初の計画から若干のテーマ変更はあったものの、ほとんど(B)の計画通り達成できた。(C)については、パリ出張の際に資料収集は十分に行うことができた。また、2019年度内に研究会で発表を行うことはできなかったが、2020年度に政治学会にて「劇場から街頭へ:熱狂をめぐる政治思想」というタイトルで報告することが決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画では、2020年度はルソー研究に集中することを目標として据えていた。当初の計画において達成しようとしていた目標は次の3つである。(ア)『演劇についてのダランベール氏への手紙』を中心としたルソー著作の読解と検討(研究会への参加)。(イ)「ミメーシスとしての演劇」と、「喜劇がもたらす情念」をテーマとする論文を執筆する。(ウ)「劇場という場に集う観客」をテーマとする口頭発表を行い、論文を執筆する。以上3つの計画については、特に大きな変更をすることなく研究を遂行する予定である。具体的には、以下のような形での目標達成を目指す。 (ア)については、2020年4月から行っているオンライン上での研究会にて継続して『ダランベール氏への手紙』を読解・検討する機会を設け、そこで多角的にルソーの政治思想を検討する。(ウ)については、すでに口頭報告が決定している政治学会にて、「劇場から街頭へ:熱狂をめぐる政治思想」というタイトルで報告原稿を執筆する予定である。ここではルソーとプラトンの両方の思想を扱い、比較検討を行う。(イ)については、プラトンにかんする部分のみを11月に開催される国際プラトン学会アジア地区大会(事前審査があるため現段階では確定ではない)で報告する予定である。ルソーに関する演劇論や喜劇論については、別の論考を執筆するか、プラトンを論じた発表原稿に追加する形で論文にし、年度内にジャーナル等に投稿することを目指す。 これらとは別に、2019年度に開催予定であった「啓蒙と政治研究会」にて古代ギリシア哲学と近代政治思想(特に18世紀フランス思想)を接続する論考を口頭報告する予定である。
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[Book] Platon und die Physis2019
Author(s)
Dietmar Koch, Irmgard Maennlein-Robert, Niels Weidtmann, Mai Oki-Suga, et.al.
Total Pages
289
Publisher
Mohr Siebeck
ISBN
9783161577390