2020 Fiscal Year Annual Research Report
Aesthetic Research on Historical Urban Restoration in Granada
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19J01247
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 紗良 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | アルハンブラ宮殿 / ヘネラリーフェ離宮 / ランドスケープ / 修復 / 都市空間 / グラナダ / イスラム庭園 / イスラム建築 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スペインのグラナダを対象とし、庭園空間概念を応用しつつ都市全体と個別建築の修復を分析することで、都市建築の歴史的重層性を美学的に考察することを目的としている。 2年目となる2020年度は、申請時の年次計画に沿って、アルハンブラ宮殿の城壁の裾野に広がる歴史的なアルバイシン地区及び宮殿内の建築・庭園空間の調査・分析に焦点を当てる予定であった。また各国の研究機関における文献調査やフィールドワーク、意見交換等を予定していた。しかし新型コロナウイルスの流行によって現地調査が困難になったため、研究手法を修正し、年度を通して資料の精読とオンラインを介した研究を行った。具体的には、20世紀の修復家、レオポルド・トーレス・バルバスとフランシスコ・プリエト=モレーノによる一次文献の精読に重点を置き、修復家のランドスケープ観や修復理論を深掘りすることを目標とするよう方向修正を行った。その結果、トーレス・バルバスの執筆した修復作業日誌や他の一次文献から彼のランドスケープ観と実際の修復作業との合致性を洗い出し、それが彼の修復理論とも深く結びついているということを論文としてまとめ、国際会議(ICDHS)にて発表することが可能となった。 また、グラナダ大学の植物学教授らとアルハンブラの庭園における修復実践や修復理論、グラナダ都市計画史にかんする意見交換をメールにて行うなど、現地研究者からのデータによる情報の補完も行った。こうした視覚情報及び現地での実証調査情報を追加し、さらに対象を空間的・時間的に絞り込んで分析した上で、意匠学会例会にて発表を行った。プリエト=モレーノにかんしてもトーレス・バルバスと同様の分析を試み、両者の庭園修復実践と理論にどのような差異があったのか、また、それらが彼らのランドスケープ観とどうつながったか、それぞれの一次文献と修復内容から分析し、美学会全国大会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はスペイン始めヨーロッパ諸国での長期滞在を目指していたが、「研究実績の概要」にも記載した通り、2020年3月以降欧米諸国でも爆発的に流行し始めた新型コロナウイルスによって、日本への帰国も現地調査も困難な状態となった。そのため当該年度は文献精査と、これまでの研究データを比較した理論的な分析を中心に行った。現地のみで確認できるデータや実地調査の結果にかんしては、グラナダ大学の植物学教授らからの報告によって情報を補完した。その際、2019年度の自身の調査データと現地研究者からの最新データとを比較し、手元の資料のアップデートをはかった。 今回行った分析は、研究対象を都市空間へと広げる際の理論的裏づけの基盤強化の一助となるであろうと考えられる。しかしながら、本研究にはやはり現地調査が重要となる。特に都市空間や庭園空間の変化は著しく、また間断なく発掘調査も行われているので、年ごとに最新の情報が必要となる。現地研究者との情報交換によってある程度補ったとはいうものの、やはり視覚情報や現地情報が不十分であり、かつ研究計画にあるアルバイシン地区の分析にも深く切り込めなかったため、進捗状況は「遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、歴史上大きく変化した、グラン・ヴィアという大通りに沿った都市区画に調査を広げ、かつ引き続き20世紀以降の都市計画や空間構成の文献の精読及び視覚資料の収集を行う予定であったが、現状では来年度の見通しを立てることが困難である。したがって、世界情勢に鑑みつつ、現地及び国内研究者らと連携した文献調査やデータ及び資料の精査が研究の核となる可能性を視野に入れていく必要がある。 文献調査にかんしては、グラナダ内で活躍した修復家のみならず、スペインにおける近代都市計画理論の祖とも言える人物で、バルセロナ市街地の整備拡張計画を作成したイルデフォンソ・セルダ・スニェールに着目したい。彼が構想した「ウルバニサシオン urbanizacion(都市計画/都市整備)」 という語はプリエト=モレーノの「ウルバニスモ」の思想源泉であるため、彼の理論は本研究の一つの鍵となるからである。現地調査ができない場合、このようにさらに外側からの理論研究が必要となるであろう。 当然のことながら、より分析を深めるためにはやはり現地調査は必須となる。記録保管所における高画質データや一部の史料は未だ当館内でしか見ることができない上、より綿密かつ広範な調査を行うことも重要である。渡欧が可能となればまずアルバイシン地区から調査を開始し、柔軟に対応していきたい。
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