2019 Fiscal Year Annual Research Report
Identification of cyanobacterial sulfated polysaccharide biosynthesis system by fusion of synteny analysis and synthetic biological method
Project/Area Number |
19J01251
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
前田 海成 東京農業大学, 生命科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞外多糖 / シアノバクテリア / 硫酸多糖 / 合成生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は3つの内容に取り組んだ。1つ目はシアノバクテリアX(以下X)の硫酸多糖合成系Xssのさらなる理解を深める研究、2つ目は異種発現系のホストであるSynechococcus elongatus PCC 7942(以下7942)への大規模遺伝子導入法の検討に関する研究、3つめはXss以外の硫酸多糖合成の探索に関する研究である。得られた成果は大きく分けて2つである。 1つ目は硫酸多糖合成系Xssのより詳細な理解である。まず、硫酸多糖合成に必要な転写制御因子XssQと、硫酸多糖合成を抑制するXssSそれぞれの破壊株についてトランスクリプトーム解析をおこなった結果、Xssの多くの遺伝子の転写にXssQが必須であり、XssSがXssQを抑制していることが示された。また、同様の顕著な転写応答を示した遺伝子は他に存在しなかったため、この制御系はXss特異的に機能していると考えられる。この制御系と相同及び類似の遺伝子クラスターは多くのシアノバクテリアに存在するが全て機能未知である。よって本研究の成果はシアノバクテリアに一般的な多糖合成制御系の解明に繋がる可能性がある。また、本成果から、Xss合成系の異種発現に必要な遺伝子はこれまでに同定した遺伝子群で網羅できている可能性が高まった。 2つ目は7942への大規模遺伝子導入系の確立である。受入研究室が開発したシャトルベクターにXss合成系の遺伝子群約18kbpを導入することで、最大30kbpのプラスミドを1ステップのクローニングで取得する系を構築した。この系で作製したXss遺伝子群を持つプラスミドを自然形質転換法により7942に導入した株は、細胞凝集と細胞外多糖蓄積を示した。これは、硫酸多糖合成系の異種発現に初めて成功した可能性を示唆する。2020年度に、この株の解析をさらに進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、当初の研究計画ほどの進捗は得られていない。これには、研究以外の事情と、研究上の事情があった。まず、研究以外の事情としては、所属研究室の学内における引っ越しがあり、1月から3月末にかけて実験に制限があった。これに連続する形で4月から5月末まで新型コロナウィルスにより研究できない状況が続いているため、2020年度の研究進捗にも遅れが出ている。研究上の事情では、想定の範囲内ではあるが大規模遺伝子の異種発現が困難という問題に直面した。研究実績で述べたように、受入研究室の開発したシャトルベクターに大規模遺伝子を導入する系は確立できた。しかし、このシャトルベクターシステムはまだ開発途上であり、染色体に相同組み換えで遺伝子を導入する系と比べて、高コピープラスミド由来であるため導入遺伝子の発現レベルが高いという長所と、形質転換体内での安定性が低く導入した長い遺伝子領域の欠落が起きやすいという短所を併せ持つことが研究の過程で明らかとなった。そのため、このシャトルベクター系と並行して従来型の染色体への導入系も必要となった。 これらの問題点と研究の遅れがあり、7942にけるXss異種発現系の構築は完了していない。しかし、研究実績で述べたように、本研究計画は着実に前進しているため、進捗はおおむね順調であると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、シアノバクテリアXのXss合成系自体については、十分なデータが集まっているため論文の執筆と特許申請準備が進行中であり、両者とも2020年度中の発表を目指す。 次に、7942へのXss異種発現系の構築については大きく3つの計画を立てている。1つ目は硫酸多糖の存在の簡便な検出法の導入である。シャトルベクターによりXss系を導入した株において蓄積した細胞外多糖の量は組成分析に供せられるほど多くない。そこで、硫酸多糖を特異的に染めるアルシアンブルー(pH0.5)を用いた染色法により硫酸多糖の存在を検証する。この実験系を運用できれば、他のシアノバクテリアにおける硫酸多糖の存在も容易に検出可能となる。より精度良く硫酸多糖の存在を調べる際には、FT-IR法の導入をおこなう。2つ目は遺伝子導入系の改良である。これはXss遺伝子群のオペロン化や発現誘導プロモーターの検討、染色体への長鎖導入などである。特に、染色体に相同組み換えで長鎖を導入するためには、組み換えの足場配列も長くとる必要があるため、7942用の新たな組み換え用プラスミドを構築する。3つめは、作製した株において導入した遺伝子群が想定通り発現しているか否かをトランスクリプトーム解析等により調べる。 また、7942に異種発現する他の硫酸多糖合成系についても探索をおこなう。現在はCyanothece sp. PCC 7822の候補遺伝子群のクローニングをおこなっている。一方で、この株を取り寄せ培養したところ、顕著な細胞外多糖蓄積は見せなかった。そこで、ゲノム情報ベースの研究対象の探索と並行して、Nostoc sp. HK-01のような単一の硫酸基転移酵素をもち細胞外多糖を蓄積する種において硫酸多糖の存在を調べ、形質ベースでの研究対象の探索もおこなう。
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