2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J01450
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古川 恭平 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | ポリアミン / エピゲノム修飾 / 高血圧 / DNAメチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、胎児期におけるポリアミンの生理的重要性をエピゲノム修飾という観点から解き明かすことである。我々は過去の研究において、妊娠期の高血圧モデルラット(SHRSP)に低タンパク質食を与えると、子の食塩感受性高血圧を発症するリスクが高まること、さらにそれにはDNAメチル化が関与する可能性を明らかにしてきた。本研究は、このDNAメチル化に低タンパク質食による胎仔中ポリアミン濃度の低下に起因するとの仮説を立て、それを実証していく。初年度では、妊娠期の低タンパク質食が胎仔中ポリアミン濃度を低下させるかを検討した(実験I)。また、次年度以降により効率的にポリアミンの影響を見出していくために、そのポリアミンの濃度低下がポリアミンの経口投与により回復するかを検討した(実験II)。 実験Iでは、妊娠した9週齢WKY/IZM(SHRSPの対照ラット)に20%カゼイン食(対照飼料)と9%カゼイン食(低タンパク質食)を給餌した。母獣の肝臓、腎臓、筋肉、脾臓、脂肪では、ポリアミン濃度に変化は認められなかったものの、胎児の腎臓および肝臓では、ポリアミンの一つであるスペルミジンの濃度が低タンパク質食区において、有意に低下することが示された。さらに、DNAメチル化と関連が報告されているメチオニンの濃度には低タンパク質食による影響は認められなかった。実験IIでは、3mM スペルミジンを妊娠期間中飲水投与した。血中のスペルミジン濃度は増加させるものの、胎仔中ポリアミン濃度には変化が見られないことが示された。しかし、このデータのみでポリアミンの分配に結論づけることはできないため、さらなる検討が必要であることが考えられた。 このように、高血圧モデルラットの妊娠期低タンパク質食給餌という実験モデルはポリアミンのエピゲノム修飾効果を実証するには適していることが考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ポリアミンのエピゲノム栄養素としての役割という新規的な仮説を検証することを目的としているが、どのような実験モデルを用いるのが適しているか検討する必要があった。これまでわれわれがエピゲノム変化を実証してきている、妊娠期の低タンパク質食を給餌するモデルを検討すると、妊娠期低タンパク質食により胎仔の腎臓および肝臓においてポリアミンの一つであるスペルミジンの濃度が有意に低下し、本実験モデルは本研究の目的に適していることが考えられた。しかしながら、低タンパク質食給与では多くのアミノ酸濃度が変動するため、ポリアミンの効果を効率的に抽出するのが困難であると考えられた。そこで、続く実験では、妊娠期においてスペルミジンの経口投与によりポリアミンが胎仔組織に分配されるかを検討したが、胎児中の腎臓や肝臓のポリアミン濃度には変化は認められず、この点はさらなる検討が必要であると考えられた。このように、今年度の目的であった実験モデルの検討では、高血圧モデルラットの妊娠期低タンパク質食給餌という実験モデルが適していることが考えられ、本研究は着実に前進している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、ポリアミンのエピゲノム修飾効果を実証していく実験モデルとして、妊娠期低タンパク質食給餌が適している可能性が示された。しかし、妊娠期においてスペルミジンの経口投与によりポリアミンが胎仔組織に分配されるかについてはさらなる検討が必要と考えられた。そこで、次年度では、まず初めにこの点を検討し、その後ポリアミンのエピゲノム修飾効果の検証に移る。また、スペルミジンの経口投与しても胎仔に分配されていなかった場合、腎細胞等を用いたin vitro実験の実施も検討する。
|
Research Products
(5 results)