2019 Fiscal Year Annual Research Report
ライプニッツのパリ滞在期(1672-1676)における自然学研究
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19J01662
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
今野 諒子 学習院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ライプニッツ / 自然哲学 / 科学史 / 近世哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、パリ滞在期(1672年4月~1676年10月)におけるライプニッツの力学を中心とする自然学を解明することである。2016年のアカデミー版全集第8系列(自然科学、医学、技術)第2巻(1668-1676)(以下、A. VIII, 2)の刊行まで、厳密に確定が困難であったライプニッツへの思想史・科学史上の影響について検証する。さらに、同時期の科学方法論および形而上学との接合を試み、パリ滞在期のライプニッツ力学の全体像を提示することを試みる。 この目的を達成するため、研究開始当初、初年度には、パリ滞在期のライプニッツ自然学の発展の契機となった、ガリレオの批判的受容過程を中心に研究を進めることを計画していた。そして、次年度から最終年度にかけて、パリ滞在期のライプニッツの科学方法論と形而上学について分析し、当該時期のライプニッツの物体概念の確立過程を考察することを目標としていた。 しかし、本研究を開始した後、ライプニッツのパリ滞在期における自然学上の新たな発展の部分に加え、パリ滞在期以前の著作との連続性と相違点を、哲学史と思想史の観点から分析することで、ライプニッツ自然学の意義を、より一層明らかにすることが可能であると考えた。また、受入研究者と議論を重ね、以下の点について研究の遂行順序を変更した。ライプニッツのパリ滞在期の自然学におけるガリレオ受容については、先行研究がほぼ皆無のため、初年度から二年目にかけては、基礎的文献の読解を重点的に行い、最終年度での研究発表を目標とする。当初の計画では、二年目から最終年度にかけて行う予定であったライプニッツの科学方法論と形而上学の研究を、初年度から二年目にかけて行い、まずは形而上学と自然学の両者にまたがる鍵概念の分析に絞り込むことである。これらの指針に従い、初年度の研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、アカデミー版全集第6系列3巻(以下、A. VI, 3)、A. VIII, 2の読解を中心に行い、二つの大きなテーマについて考察を行った。概要は以下である。まず、ライプニッツ自然学の鍵概念である「コナトゥス」について、以下の点に着目した。すなわち、ライプニッツが、ホッブズから当概念を受容する過程で、現象の説明を機械論的に行うという意味でのマテリアリズムの立場を表明すると同時に、精神の働きである「知覚」を物体の運動へと還元する立場を批判している点である。ライプニッツが、コナトゥスを物体の構成要因であると考えたのは、ホッブズに倣い、世界を機械論化することで、その知解可能性を高めるためである。その意味で、コナトゥスは、物体を「精神化」するための概念装置ではない (cf.Garber 1982)。その一方で、ライプニッツは、物体を知覚する側の「精神」に反省作用を認め、世界を調和的に認識することが可能であると主張した。 次に課題としたのは、「作用」の概念の分析である。当概念は、元来、形而上学と神学で培われた実体概念に基づき、精神の働きに即して使用される。パリ滞在期以前のライプニッツにおいて、作用の概念は自己回帰的特徴を持ち、人間の精神の思考や反省能力に用いられていた。そこで問題となるのは、ライプニッツが自然現象の機械論的説明に際し、精神を伴わない非生命体としての物体について、如何なる仕方で作用の概念を適用したのかである。この問いに答えるため、神学的著作で論じられている「実体的結合」の概念に着目し、自然学において、物体の運動における「作用」を対象とする際、当概念が影響を与えたのか否か、もし影響があるのならば、どのような概念の変容あるいは拡張が行われたのかを考察した(学会延期により令和元年度中に発表が行われず、令和二年度へ延期になった)。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目の研究では、初年度に引き続き、ライプニッツの科学方法論と形而上学の観点から、A. VI, 3とA. VIII, 2の読解に取り組む。その間、国内のライプニッツ研究者と情報交換と議論を行うことに加え、二年度目の後半以降に予定されている国外での研究発表と在外研究に備え、フランスを中心とする国外のライプニッツ研究者や科学史研究者との情報交換も続けていく。 具体的な内容の点では、以下の二つの課題を主軸として研究を遂行する。 まず第一に、科学方法論の観点については、ライプニッツがパリ滞在期の中盤(1674年後半)以降、因果性を自然学へと導入している点に着目する。確かに、それ以前のライプニッツの著作にも因果性についての考察が見られるが、物体の作用の原因を第一動者としての神へと帰す議論に基づき、物体の運動論をはじめとする自然法則へ適用されるには至らなかった。どのような仕方で、ライプニッツが物体同士の相互作用を対象化し、現象を数学化するための方法を獲得したのかを明らかにする。 次に、形而上学の観点については、ライプニッツが自然学を構築する途上で、現象を認識する主体にどのような役割を与えていたのかを考察する。ただし、ライプニッツの晩年の思想に見られるような、実体の内的性質としての「表象」と、内的作用としての「欲求」を備えたモナドの概念が確立する以前には、精神の本性についての探究が様々な文脈において行われていた点に注意する必要がある。パリ滞在記以前の著作では、一方で、精神の反省作用に焦点が当てられ、認識主体における自己認識が、現象を記述する際の起点になっている。他方でライプニッツは、認識主体の感覚的知覚に由来する知識の扱い方も顧慮していた。これらの論点が、パリ滞在期にどのように発展したのかを考察する。
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Remarks |
在外研究(文献調査、セミナー参加) (1)2019年6月、フランス(フランス国立図書館、パリ第一大学、エコール・ノルマル) (2)2020年2月、フランス(フランス国立図書館、パリ第一大学・第七大学、エコール・ノルマル)
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