2020 Fiscal Year Annual Research Report
ライプニッツのパリ滞在期(1672-1676)における自然学研究
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19J01662
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今野 諒子 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ライプニッツ / 近世哲学 / 自然哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ライプニッツ自然学の鍵概念である「コナトゥス」について、令和元年度に行った学会発表の原稿に加筆修正を加え、論文(「ライプニッツの「マテリアリズム」」)として刊行し、日本ライプニッツ協会の研究奨励賞を受賞した。そして、ライプニッツの形而上学と自然学の両者にとって重要な「作用」の概念について、彼の初期思想からパリ滞在期までの思想に焦点を当て、その意義の解明に努めた(「初期ライプニッツの作用について-実体的結合の概念を手がかりに-」、日仏哲学会での口頭発表)。また、「作用」の概念は、物体の運動についてだけでなく、生命体の精神の働きについても言われる。ライプニッツは、各々の存在は各自の「視点」を通して外界との関係を持つと主張しており、精神は五つの個別の感覚が収束する「点」として位置付けられる。これは、アリストテレスの「共通感覚」の再解釈である。知覚の生成過程を機械論哲学によって説明する同時代の傾向に対し、ライプニッツは、精神の能動的な作用として、認識主体が行う反省作用へ着目した。初期ライプニッツにおける「視点」の概念は、精神の作用が自己へと回帰する「点」として捉えることができる(「感覚・知覚・反省―若きライプニッツの「視点」の探究―」、国際哲学コレージュ(フランス)での口頭発表)。 ライプニッツの自然学の具体的な展開については、ライプニッツによるガリレオ受容が行われた時点を正確に示すために、まずパリ滞在期直前の著作に遡り、ガリレオへの言及箇所を分析し、自然学上の受容として評価できるか否かを考察した(「若きライプニッツの仮説の概念」、フランス語圏ライプニッツ協会での口頭発表)。その過程で、ライプニッツは、フランスのイエズス会士オノレ・ファブリ(1608-1688)を介して、ガリレオを受容したことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、パリリ滞在期(1672年4月-1676年10月)におけるライプニッツの力学を中心とする自然学を解明することである。 本年度の初頭に、具体的な研究の内容として、(1)パリ滞在期の中盤までを視野に入れ、ライプニッツが因果性の概念を自然学へ導入した過程の分析、(2)自然学を確立する際に、ライプニッツが現象の認識主体に与えた役割の解明を計画していた。 まず(1)について、因果性概念の自然学への導入の前提として、自然現象における「作用」の概念の意義を示す必要があった。そこで、パリ滞在期以前のライプニッツの思想にまで遡り、当概念が、神学と形而上学において陶冶された点に着目した。非生命体、すなわち物体同士の間での作用は、神学的・形而上学的には認められず、神の瞬間的かつ連続的創造によって与えられるのみである。そこで、ライプニッツの自然学が、「機会原因論」的な枠組みで、構想されていたことを明らかにした。また、「作用」の概念は、非生命体のみならず、生命体の精神の作用をも特徴づけている。上記計画(2)では、これをふまえ、ライプニッツが精神を自己の作用が回帰する「点」と解釈していることを明らかにした。 これらの研究業績に加え、パリ滞在期におけるライプニッツの自然学に対する前提的考察として、ライプニッツが、同時代のオノレ・ファブリを介してガリレオの間接的な受容を行なっていたことを明らかにした。研究史では、ガリレオの自然学の解釈は一義的ではなく、当時、ヨーロッパの知識人の間で論争的状況が生じていたことが知られている(Galluzzi(2002); Palmerino (2011))。ライプニッツの自然学もまた、こうした思想史の文脈で解明されねばならないことが示され、詳細についての考察は次年度への課題として残った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、ライプニッツ自然学の意義を、パリ滞在期以前の思想との連続性と相違を示すことで、哲学史と思想史の観点から明らかにすることを試みる。そのため、以下に述べる二つの指針に基づいて研究を遂行している。まず第一に、ライプニッツのパリ滞在期の形而上学と自然学の分析とを併せて、当研究員の博士論文の研究成果を哲学史的観点から十分に見直し、出版のための加筆修正を行うこと。第二に、ライプニッツのパリ滞在期における、ガリレオ受容を中心とする自然学研究については、先行研究がほぼ皆無のため、初年度から二年目にかけては、基礎的文献の読解を重点的に行い、最終年度での研究発表を目標とする。 本年度の研究では、第一の方針について、ライプニッツのパリ滞在期とそれ以前の思想の連関を示すことに努め、「作用」の概念の解明を糸口に、現象を認識する精神の特徴とその役割を明らかにした。その成果をふまえ、来年度は、ライプニッツの認識論上の思想が、自然学の方法論へどのように接続されるのかを考察したい。 また、第二の指針について、ライプニッツがパリ滞在期以前に、ガリレオを間接的に受容していた経緯をふまえ、ライプニッツの自然学を、より広い思想史の文脈において理解することに努めたい。具体的には、ライプニッツによるアカデミーの構想も分析の対象とし、どのように経験科学の受容が行われたのかを精査していきたい。
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