2019 Fiscal Year Annual Research Report
Endopolyploidy in the insect intracellular symbiosis: mechanism and ecological significance
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19J01756
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
野崎 友成 基礎生物学研究所, 生物機能解析センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 倍数性 / 細胞内共生 / 昆虫 / アブラムシ / 共生微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫と共生微生物の細胞内共生において、共生細菌、およびホスト昆虫がもつ共生者を収納する細胞(ホスト細胞)、両方のDNA量が倍加していることが指摘されてきた。細胞の倍数化に関しては、近年関心が寄せられつつあるものの、「共生」や「社会性」といったマクロな視点からその意義を調べた研究はほとんどない。本研究では、昆虫の細胞内共生系のモデルであるエンドウヒゲナガアブラムシとその共生細菌ブフネラを材料とし、両者のDNA倍数化が遺伝子発現に与える影響とその制御機構、そして生物学的な意義を解明することを目的としている。 本年度は、当該研究課題の初年度であり、実験系の確立や基礎的な情報の収集に多くの時間と労力を注いだ。また、今後の遺伝子発現解析に必須であるバイオインフォマティクス的な技能の習得にも時間を費やした。結果として、アブラムシのホスト細胞および共生微生物ブフネラの細胞あたりDNA量を正確かつ再現性よく定量できる系を確立することができた。またホスト細胞に関して、アブラムシ個体の表現型や発育段階に応じた倍数性の変異を発見した。さらに、各表現型(無翅胎生メス、卵生メス、オス)のホスト細胞の遺伝子発現プロファイルを取得し、発現変動遺伝子の解析を開始することができた。 今後、より網羅的にアブラムシのホスト細胞およびブフネラの倍数化パターンを記述すると同時に、倍数性依存的に発現が変化する遺伝子の探索を行う。また、細胞の倍数性とその他の形態・機能の関係についてもイメージングにより解明する予定である。以上により得られる情報から、細胞内共生における倍数化の生物学的な意義について仮説を提唱することができるだろう。その後、倍数性制御に関わる遺伝子の機能解析により、仮説検証を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の計画では、アブラムシにおいて、ホスト細胞とブフネラの倍数性を定量する実験系を確立することが第一の目標であった。また、第二の目標として、次年度以降の遺伝子発現解析の条件検討を行うことを掲げていた。進捗状況としては、倍数性について、正確かつ再現性のある実験系を確立しただけでなく、異なる表現型や発育段階における倍数性の変異について記述することができた。また遺伝子発現解析についても、本実験を一部開始することができ、重要な結果を得ることができた。また、最先端の技術であるシングルセルRNA-seqにも技術習得に挑戦している。以上から本年度は当初の予定以上に研究が進展していると評価した。 本年度はまず、アブラムシのホスト細胞の倍数化パターンを記述した。Feulgen densitometryと、DNA特異的に結合し蛍光を発するDAPIをもちいたFluorometryの両方を用いて、アブラムシ胎生メスのホスト細胞は主として128倍体細胞から構成されていることを明らかにした。またホスト細胞同士の間隙を埋める鞘細胞も倍数化しており、こちらは主に16倍体細胞から構成されていることがわかった。また、卵巣発達が急激に進行する発育段階で、ホスト細胞は高度に倍数化すること、さらに、卵生メスのホスト細胞は胎生メスのものと同程度の倍数性を示したのに対し、オスのホスト細胞は主として64倍体細胞から構成されていることがわかった。以上から、アブラムシのホスト細胞の倍数化がメス側の繁殖能力や卵巣発達過程に関わる可能性が示された。 共生細菌ブフネラの倍数性も検討し、先行研究と矛盾しない結果を得た。さらに、ホスト細胞で高発現している遺伝子について、各種表現型間で比較を行った。これらの解析手法と得られたデータは今後の研究の展開の重要な基礎となるものであり、次年度からの研究が加速度的に進展することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度得られた結果を順次論文化するとともに、確立した実験系を用いてアブラムシのホスト細胞およびブフネラの倍数化パターンを網羅的に記述する。その後、見出した倍数性の変異間で遺伝子発現パターン・量を比較解析し、倍数性依存的なホスト細胞・ブフネラの遺伝子発現の制御があるかどうか調べる。さらに、1細胞レベルでの倍数性と遺伝子発現の関係を調べるために、シングルセルRNA-seqの実験系を検討する予定である。また、倍数化と細胞機能の変化の関係をより詳細に理解することを目的として、ホスト細胞と共生者のその他の細胞学的特徴の記述も網羅的に行う。具体的には、共焦点レーザー顕微鏡をはじめとする各種顕微鏡をもちいた解像度の高い観察により、ホスト細胞の細胞内小器官や、ブフネラの形態と倍数性の関連を調べる。その後、倍数性制御に関わる遺伝子の推定と機能解析を行い、制御機構を解明する。 本年度確立した倍数性の測定系は、アブラムシ以外の昆虫/細菌の細胞内共生に用いることが可能である。カメムシ目だけでなく、甲虫目やハチ目など広い分類群で細菌との細胞内共生系が報告されており、共生の関係性や微生物の機能などは非常に多様である。今後の展開として、アブラムシ/ブフネラの共生系で見出された倍数性の意義や制御機構について、普遍性および特殊性を調べる実験を行う予定である。
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