2020 Fiscal Year Annual Research Report
金属代謝異常に起因する神経変性疾患の病態進行の分子メカニズムの解明と予防法の確立
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19J01778
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
西藤 有希奈 京都薬科大学, 京都薬科大学 薬学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / 輸送体 / マンガン / 亜鉛 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の目的】ある種の神経変性疾患においては、脳内に複数の金属の蓄積が認められることが報告されており、脳内の金属代謝を維持することは非常に重要である。一方で、脳内における金属の代謝や動態の制御に関わる分子や機序の詳細は不明である。本研究では、脳内金属代謝機構およびその破綻機構を解明するために、脳内への金属蓄積が指摘される老齢マウスにおいて発現が変動する輸送体を網羅的に解析し、その機能を評価することを目的とした。 【結果の概要】10,20,40,80週齢のマウスにおいて、新規物体認識試験を行った結果、60および80週齢のマウスにおいて認知機能の低下を認めた。また、各マウスから大脳皮質および海馬を摘出し、誘導結合プラズマ質量分析法にて、組織内金属(Fe,Cu,Mn,Zn)の差異を比較解析した結果、60週齢以降のマウスの大脳皮質および海馬において、上記金属量の上昇が認められた。次に、老化に伴う脳内の金属代謝破綻機構を明らかとするため、脳での金属代謝に関わることが報告されている輸送体の発現についてRT-PCRおよびreal time PCRを用いて網羅的解析を行った。発現に差異があった輸送体についてウエスタンブロット法により詳細な解析を行ったところ、Fe,Cu,Znの取り込みに関わるZIP14の発現が老齢マウスの脳において上昇していることを認めた。この結果は脳内への金属の蓄積量と相関しており、さらに、認機能の低下以前に認められることから、ZIP14は老化における脳内金属代謝の破綻および認知機能の低下に大きく寄与する可能性が予想された。今後は、免疫染色法を用いた組織学的な解析などから、金属の集積部位とZIP14の発現部位の差異について詳細な解析を行うと共に、ZIP14の発現上昇と金属蓄積の相関性についてより詳細に理解したいと考えている
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の研究により、誘導結合プラズマ質量分析法を用いた解析から、老齢マウスの脳においてFe,Mn,Z,Cu等の蓄積がしていることを確認し、更に、この金属代謝破綻機構に関する輸送体の候補を明らかにした。本年度は、これら輸送体についてより詳細な解析を行い、老齢マウスにおいて金属の取り込みに関わる輸送体ZIP14の発現が増大することを見出した。更に、ZIP14の発現上昇は金属蓄積量と相関しており、認知機能の低下以前に認められることから、ZIP14が老化における脳内金属代謝の破綻および認知機能の低下に大きく寄与する可能性を見出した。一方で、ZIP14が脳内金属代謝破綻や認知機能低下にどの様に関与するかについての理解は、今後の課題としている。したがって。本年度は総合的に見て、脳内の金属代謝破綻に関わる輸送体の候補を得られたものの、詳細な機能については明らかとできなかったため、期待ほどの進展は得られなかったと判断している。一方で、今年度の研究から、老齢マウスにおいては脳以外の組織においても組織中金属量に差異があることが明らかになった。そのため、次年度の研究計画として、個体全体での金属代謝の変化とそのメカズムについても解析することを計画しており、これらの研究成果によって、老化に伴う金属代謝破綻機構の一端を解明することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ZIP14の発現変動による金属代謝破綻機構の解明 脳内金属代謝の破綻に関与することが予想されたZIP14が脳内の金属代謝制をどの様に制御するかについて、細胞レベルで評価する。ヒト神経芽細胞 (SH-SY5Y 細胞)においてZIP14の欠損株を作製し、細胞内金属量を ICP-MS にて測定し、細胞内において各種金属量が変化するか確認する。さらに、ZIP14を再発現させ、細胞内の金属量を回復させることを確認し、ZIP14が細胞内金属代謝制御に関わることを実証する。 また、ZIP14はLPSやサイトカイン等の刺激によって誘導されることが知られている。そのため、老化によるZIP14の発現増大は炎症と関係がする可能性がある。そこで、脳内において炎症時にZIP14の発現が変動するか、またそれにより細胞内金属量および金属代謝に関わる因子の発現が変化するかについて検討を行う。 さらに、免疫組織学的解析を用いて、老化マウスにおける脳内へのZIP14の発現増大を組織学的観点から解析する。また、脳凍結組織切片中のZIP14の発現部位と、各種金属量の集積部位部位についてレーザーアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)法により局所検出し、ZIP14の発現と脳内金属蓄積の相関性についてより詳細に理解する。 (2)老化マウスにおける個体全体での金属代謝変化と金属輸送体の発現の相関性の理解 今年度の研究から、老齢マウスにおいては脳以外の組織においても組織中金属量に差異があることが明らかになった。そこで、これら組織への金属の吸収や排出過程に関与する金属輸送体の発現の変化と、金属代謝の変化の相関性について理解し、老化における個体全体での金属代謝破綻機構についても理解することを目標とする。特に、ZIP14は肝臓での金属吸収にも大きく関与しているため、ZIP14が脳のみならず肝臓での金属代謝の変動にも寄与するかなどについても理解したいと考えている。
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Research Products
(10 results)