2019 Fiscal Year Annual Research Report
脂質抗原に対する魚類の細胞性免疫誘導機構の解明と新規水産用ワクチン開発への挑戦
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19J01830
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
松本 萌 東京海洋大学, 学術研究院, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | CD1 / MHC class I / ミコール酸 / Mycobacterium / ニジマス |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類の細胞内寄生性細菌感染症は養殖場において最も問題になっている感染症であり、その多くにおいて効果的な防除法が未だ確立されていない。特に、多くの魚種に共通して発生する抗酸菌症の原因細菌であるMycobacterium属細菌は、菌体の最外周部に豊富な脂質層を有しており、これが宿主に対し高い病原性を示す。ほ乳類では、このような脂質抗原に対する免疫応答において非古典的MHCクラスI分子である「CD1」が中心となり、抗原を排除することが知られている。一方魚類では、ほ乳類のCD1に相当する分子がゲノム上に存在しないが、非古典的MHCクラスI分子である「L系統」がCD1に相当する機能を持つことが予想されている。そこで本研究では、L系統を介した細胞内寄生細菌の脂質に対する魚類独自の免疫応答を明らかにすることを目的とした。 本研究の対象生物であるニジマスはゲノム上に2種類のL系統分子LAA遺伝子およびLBA遺伝子を持つ。そこで、脂質抗原として知られる、ニジマス抗酸菌症原因細菌Mycobacteoides salmoniphilum由来のミコール酸をニジマスに接種し、14日後、28日後のLAAおよびLBAの遺伝子発現を調べたところ、ミコール酸刺激に対しLBA遺伝子の発現が優位に上昇することが明らかとなった。そこで、LBA分子に対するモノクローナル抗体を作製し、LBA発現細胞の局在および発現細胞を調べた。LBA分子はニジマスの頭腎・体腎に広く分布しており、その中でも、マクロファージや顆粒球等の大型細胞に発現していることが明らかとなった。このことから、LBAは、ほ乳類のCD1に代わる魚類特有の抗原提示分子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、ドイツFriedorich-loefflor institut(FLI)にてL系統発現細胞の特徴付けおよび機能解析を行う予定であったが、新型コロナの蔓延によりドイツへの渡航が困難となったため、本実験を一時中断した。そこで今年度は、昨年度課題にあげていた① LBA陽性細胞に対するモノクローナル抗体の再作製と、② 3年度目に実施予定であったワクチン試験の予備実験を、計画を前倒して行った。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツFLIにて実験予定であったL系統分子発現細胞の特徴付けおよび機能解析を現在の所属機関である東京海洋大学にて遂行できるよう現在調整中である。また、L系統分子のみならず、他の分子の脂質抗原に対する免疫応答を明らかにするため、mRNA-seqを利用した網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。これらの実験により、LBAの機能と、その他分子による脂質抗原に対する魚類の総括的な免疫機構を明らかにしていく。
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