2019 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄からみる環太平洋島嶼植民地支配の重層性:パイン産業の国際移動の批判的検証
Project/Area Number |
19J01886
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
八尾 祥平 上智大学, 総合グローバル学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 人の国際移動 / 台湾人 / 華僑・華人 / 沖縄人 / ハワイ / パイナップル / グローバルヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画の初年度として、ハワイ・台湾・沖縄での史資料調査およびフィールド調査を実施した。パイン産業が、ハワイから台湾を経由し、沖縄へと伝播した歴史的経緯を、グローバルかつマルチエスニックに析出することに重点を置いた。なお、今年度の研究成果の一部は、八尾祥平、「パイン産業にみる旧日本帝国圏を越える移動-ハワイ・台湾・沖縄を中心に」(植野弘子・上水流久彦編『帝国日本における越境・断絶・残像-モノの移動』風響社、pp.259-298)等として刊行された。 Ⅰ.ハワイから台湾へのパイン産業の国際移動: 調査の結果、戦前、福島からハワイへ移民し、その後、台湾に先進的なパイン産業のノウハウを導入した岡崎仁平についての史料を発見した。戦前の台湾で語られたハワイにおける日系移民の状況は、ハワイ研究者では発見が難しく、しかし、当時のハワイにおける日系移民の状況を明確にする貴重な史料であった。 Ⅱ.「戦後」の台湾のパイン産業と国際移動: 台湾では1970年代以降の経済発展の結果、食糧自給率は低下した一方で、パイナップルについては現在、史上最高の生産量となっていることが明らかできた。 Ⅲ.沖縄のパイン産業と国際移動: 「戦後」沖縄のパインブームを支えた、沖縄人・台湾人ネットワークを分析し、日本帝国崩壊前後との連続性・断続性および重層性を史資料から析出した。 Ⅳ.パイン産業をめぐるモノの国際移動: パイン産業は製缶業の動向とも密接に関連している。ハワイから台湾へのパイン産業のノウハウ移転には東洋製罐の高碕達之助が大きく関わっていた。高碕のもつ、アメリカや満洲とのつながりについては先行研究や自伝などでも言及されてきたものの、台湾とのつながりについては、これまでその重要性があまり知られてはいなかった。本研究を通じて、高碕を通じたグローバルなネットワークについての理解を深める発見ができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ハワイ・台湾・沖縄での調査を実施し、計画に沿って研究プロジェクトをすすめることができた。これに加え、調査を通じて研究計画時には気づくことのなかった、しかし、重要な研究課題を新たに発見することもできた。このため、当初の計画以上に研究が進展したと判断した。新たに発見した研究課題は以下の通り。 Ⅰ.排華法の見直し: 戦前の日本側に残された史料から、アメリカ植民地下のフィリピンでは、多くの日本人・沖縄人が流入した一方で、台湾人は、台湾戸籍の日本籍民であるにも関わらず、排華法が適用され、移民が認められなかったと考えられた。華僑華人研究では、排華法についての先行研究は非常に分厚いものの、日本でおいてさえ、日本籍民であった台湾人とアメリカの排華法との結びつきについては研究上の盲点となっていたと言って良い状況にある。日本帝国の植民地出身者と他の欧米列強による排華法との関係は、従来の中国と欧米列強との関係とは異なる視座から人種と植民地支配をめぐる研究を根底から問い直し、グローバルレベルでトップの研究成果として新たな研究の展開をもたらす可能性が高い。 Ⅱ.スペイン帝国ネットワークという視座: 前近代における台湾へのパイナップルの伝来経路は(1)福建省ルートと(2)フィリピンルートの2説があり、現在、前者が有力視されている。だが、史料調査の結果、フィリピンを通じて東アジア・東南アジアとメキシコを結ぶネットワークが機能していること、フィリピンの宣教師たちによるパインに関する記述、福建省出身のメスティーソたちが現在もフィリピンでパイナップル布の生産に携わることなど、フィリピンルートを明確には否定できないことが判明した。こうした前近代から続くスペイン帝国ネットワークの存在を念頭においた調査が今後必要になっていることがわかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度も研究計画にそった調査の実施を行う予定ではあったものの、コロナウィルス問題により、ハワイ・台湾・沖縄でのフィールド調査はおろか研究機関の閉鎖により史資料調査すら実施できず、再開の見込みも現段階では立っていない。全ての調査対象地での調査が一斉にできなくなってしまう事態は研究計画策定時には全くの想定外であったため、研究が進められない場合の研究計画案そのものを練り直さねばならない事態に陥ってしまった。 現時点での研究計画は以下の通り。 Ⅰ.研究再開時の準備: 研究が計画通りに再開できるようになった時点で即座にプロジェクトを実施できる態勢を整える。とりわけ、2020年度は台湾・中央研究院やハワイ大学で比較的長期の調査を実施する予定だったため、両機関の受け入れ研究者と緊密に連絡を取り合い、研究が再開可能となった時にはすみやかに台湾とハワイでの調査を実施できるように十分な準備を進めていきたい。 Ⅱ.史資料の整理と分析: 現在までに収集した様々な史資料の整理・分析を進める。とりわけ、研究計画時には未発見であったものの、これまでの調査で収集できた重要な史料の整理と分析を可能な限り進める。 Ⅲ.研究成果の刊行準備: 研究成果のアウトリーチとして、一般の読者向けの書籍の執筆を進める。なお、本件は、すでに岩波書店との間で出版についての合意が既に取られており、『パイナップルと「日本人」』として刊行される予定である。当初の予定では、2020年度の研究成果も盛り込む予定であったが、現段階では研究再開の目処が立てられないため、担当編集者とも十分に相談をした上で柔軟に対応したい。
|