2020 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄からみる環太平洋島嶼植民地支配の重層性:パイン産業の国際移動の批判的検証
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19J01886
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
八尾 祥平 上智大学, 総合グローバル学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | パイン産業 / 移民 / 労働 / 台湾人 / 沖縄人 / 日系人 / 華僑華人 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、コロナ禍により、当初予定していた台湾・ハワイでの在外研究を断念せざるを得なくなった。研究計画通りに研究が実施できない場合も事前に想定はしていたものの、グローバルに移動に制限がかかる状況は事前に想定することが全くできず、研究を少しでも前進できるよう、研究計画を全面的に見直し、調整せざるを得なかった。そのうえで、今年度は先行研究・関連研究の整理や国内での史資料調査を中心に研究を実施した。 この結果、これまでハワイ―アメリカの構図で捉えていたハワイ併合を、同時代の米西戦争をきっかけとしたアメリカによるキューバやフィリピンの「植民地」化も視野に入れて、よりグローバルな視座から歴史的な意義を捉えることができるようになった。また、ハワイの労働史研究では、1946年の製糖業におけるエスニシティを越えた連帯に支えられたストライキがよく知られている。通説では、1930年代にこうした連帯を準備する動きがあったとされているものの、沖縄に保管されている湧川文庫の史料から、実は1920年代における製糖業のストライキにその萌芽があったことを示唆する史料が発見できた。ハワイにおける労働の現場での連帯だけでなく、「人種」の階層化による労働者間の分断の問題を、今後、台湾や沖縄の同時代の動きと共に捉えなおしたい。今年度の研究は、19世紀以降の日米の勢力圏下での移民労働者の問題をより精緻な枠組みで捉える足がかりにすることができた。 さらに、湧川文庫からは、ハワイの沖縄人が第二次大戦をどのように理解し、「戦後」の沖縄への慰問を通じて、それまで見えていなかった沖縄の壊滅状況を知ることで生じた変化は、戦後のハワイ・沖縄関係という本研究課題のテーマとなる沖縄の重層性を考察する上でも重要な発見となった。 こうした調査によって得られた成果の一部は、オンライン開催による国際シンポジウムなどで報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、当初の計画では、台湾とハワイでの在外研究を実施する予定だった。しかし、コロナ禍により、海外渡航を見合わせざるを得なくなった。このため、台湾でも、ハワイでも、当初、調査する予定であった貴重な史料を閲覧することができなくなった。とりわけ、現地の閲覧室でのみ閲覧が可能な貴重な史料は完全にアクセスできない状態となってしまった。また、フィールドワークによる聞き取り調査も断念せざるを得なくなった。国内でもロックダウンや、感染予防に留意した研究体制を再建することにもだいぶ時間を要する状態であった。 このため、今年度の前半は、研究体制の再構築と、研究計画全体の見直しを行った。そのうえで、今年度は、これまでの史資料の整理、先行研究や関連研究の読み直し、感染予防に十分に留意した上での国内での史資料調査を進めることにした。 関連研究の読み直しの作業を進める中、Horneによる"The White Pacific"(2007)や、Gilroy"Between the Camps"(2001)といったアメリカやイギリスにおける「人種」をグローバルな視座から捉えなおす議論の知見から、本研究におけるグローバルな視座から沖縄の重層性を捉えなおす議論との接点を模索した。こうした作業を通じて、本研究をよりグローバルな議論の水準での位置づけを明確にし、今後の新たな研究課題をいくつか発見できた点は当初の予想を上回る成果となった。 また、これまで国内の研究機関や図書館には所蔵されておらず、国立台湾図書館でのみ閲覧可能であった貴重な幾つかの史料が、偶然、古書として市場にでていたものを入手することができた。これにより、台湾での在外研究時に実施する予定であった調査を一部、実施することができた。 以上から、遅れているから一段階上げたやや遅れていると区分した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは現在のコロナ禍の推移を注視し、未実施の海外での調査が可能となった段階で速やかに研究計画が実施できるように準備したい。また、海外調査ができなくとも、海外の研究協力者に史資料の収集を依頼するなど、代替手段を模索し、当初予定されていた研究計画を少しでも多く実施できるように努める。また、聞き取り調査も、調査対象者は高齢者が多く、PCやネットを用いた聴き取りには限界がある。こうした制約が大きい状況でも、可能な場合にはオンラインでの聞き取り調査を実施するなど、調査者に過大な負担とならないように最大限の配慮を行ったうえで、代替的な調査の実施方法を模索したい。 また、研究成果の出版については、出版社側と綿密に打ち合わせを行い、執筆内容を調整しした上で、2022年度内に刊行することを目指す。なお、原稿自体は既に9割方書きあげており、コロナ禍により、調査ができなかった事項などの調整が終わり次第、校正などの編集作業に入れる状態にある。研究計画当初には全く想定できなかった状況ではあるものの、研究の最終年度として、これまでの研究成果をまとめて出版したい。 さらに、国内においても、新型コロナウィルスに対する感染予防を徹底した上で、史資料調査を実施したい。とりわけ、現状ではなんとか実施が可能な沖縄・台湾関係の史資料の収集と整理には特に力をいれて取り組みたい。 なお、新型コロナの再流行等でロックダウンといった措置が取られた場合であっても、これまでに収集した史資料の分析だけでなく、オンラインでの史資料収集など、できる限り代替的な手法を用いて研究を進められるように努めた研究活動を実施する。
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