2019 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ粒子抗がん剤の作用機序解析のための新奇材料開発
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19J01971
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
山本 翔太 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / アポトーシス / シグナル伝達 / メカノバイオロジー / がん細胞 / 上皮成長因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
通常、細胞増殖を促進する上皮成長因子(EGF)は、ナノ粒子に固定化された途端、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導する。そのため、このようなEGF担持ナノ粒子は新たな抗がん剤として期待されているが、そのメカニズムは未だ不明瞭である。そこで本研究では、粒子の活性化を制御できる新たなEGF担持ナノ粒子を開発し、ナノ粒子が獲得する特異なアポトーシス誘導活性の作用機構の解析を行う。 本年度は上皮成長因子担持ナノ粒子が獲得する特異なアポトーシス誘導活性に対する粒子特性の影響を調べた。はじめに、異なるサイズの金ナノ粒子の表面に、EGFを修飾することで粒径の異なるEGF担持金ナノ粒子を調製した。調製したEGF担持金ナノ粒子を動的光散乱法およびField Flow Fractionation法によって解析したところ、どれも単分散であることが分かった。続いて、EGF担持金ナノ粒子を子宮頸がんHeLa細胞に投与し、アポトーシス細胞を検出したところ、粒子径がアポトーシス誘導効率に影響を与えることが明らかとなった。また、ナノ粒子の表面EGF密度を変えたところ、固定化量の増加に対して当該受容体のリン酸化量も高まり、当該受容体の活性化は、表面のEGF固定化密度に影響を受けることが示唆された。さらに同程度の粒径を持ち、粒子のコアを金ナノ粒子の代わりに、高分子からなるナノ粒子に置き換えた場合でも、金ナノ粒子と同程度の抗がん活性を示した。これにより、本戦略によるがん細胞へのアポトーシス誘導は生体適合性高分子など様々な担体でも適応できることが判明した。以上のように、本年度はナノ粒子抗がん剤の作用機序解析のための基礎研究として、上皮成長因子担持ナノ粒子がアポトーシス誘導活性を獲得する条件を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、上皮成長因子を担持させたナノ粒子が獲得する特異なアポトーシス誘導活性に対する粒子特性の効果を調べた。はじめに、粒径の異なる金ナノ粒子の表面に上皮成長因子を固定化することで様々なサイズのEGF担持金ナノ粒子を調製し、それぞれの粒子を子宮頸癌HeLa細胞に投与すると、粒子径に応じて、アポトーシス誘導活性も変化することが明らかになった。続いて、粒子表面のEGF密度を変化させた粒子を調製し、HeLa細胞に投与したところ、上皮成長因子受容体の活性化はEGF密度によって変化し、固定化密度が当該受容体のリン酸化に重要であることが判明した。さらに粒子のコアを金ナノ粒子の代わりに、高分子からなるナノ粒子に置き換えた場合でも、金ナノ粒子と同程度の抗がん活性を示すことが分かった。これらの結果は、金ナノ粒子だけではなく、生体適合性高分子など様々な担体への展開が可能であることを示唆している。 以上のように、2019年度はナノ粒子抗がん剤の作用機序解析のための基礎研究として、上皮成長因子担持ナノ粒子がアポトーシス誘導活性を獲得する条件を明らかにした。また、投稿論文3報、学会発表4回(受賞1回)、さらには日本分析化学会関東支部の2019年度新世紀新人賞を受賞した。よって本年度は「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、2019年度の研究成果を踏まえ、上皮成長因子担持ナノ粒子が獲得する特異なアポトーシス誘導活性のメカニズムを解析するために、新しい機能性ナノ粒子の開発を行う予定である。 はじめに、上皮成長因子の活性を制御できる新奇上皮成長因子担持ナノ粒子を開発する。このナノ粒子を用いて、上皮成長因子受容体のリン酸化や、アポトーシス関連たんぱく質の発現、活性化などを調べることで、ナノ粒子が獲得するアポトーシス誘導活性の作用機序を理解する。特に、申請者は上皮成長因子担持ナノ粒子のアポトーシス誘導において、脂質ラフトと呼ばれる細胞膜のナノドメインが中心的な役割を果たすことを見出しているため、この脂質ラフトという応答場に焦点を当て、上述した研究を遂行する予定である。 続いて、ナノ粒子の細胞内動態を調べるために、蛍光色素と上皮成長因子を粒子の表面に導入した蛍光ラベル化上皮成長因子担持ナノ粒子を調製する。この粒子と細胞内分子を検出するバイオ分析技術を組み合わせることで、応答場から発生するアポトーシス活性分子の特定や、動態解析により上皮成長因子担持ナノ粒子が誘導するアポトーシス機構を解明する。また、このような解析を行うことで、粒子表面設計を最適化し、がん細胞に対する治療効果を高める材料も開発する予定である。
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